
片付けが苦手だという人は少なくありません。
それでも思い切って片付けてみると、気分がスッキリするのではないでしょうか。
この感覚について、米国の心理学者スージー・ピレッジ・パウェルスキー氏とジェームズ・パウェルスキー氏は、心理学の視点から解説しています。
片付けは単なる整理整頓ではなく、ストレスの感じ方や集中のしやすさに関わる可能性があり、私たちの暮らしを支える行動なのです。
目次
- 散らかった部屋はストレスと関係している
- 片付けは「集中しやすい頭」を作る
散らかった部屋はストレスと関係している
まず注目したいのは、片付けとストレスの関係です。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の2009年の研究では、女性たちが自宅についてどう表現するかと、ストレスホルモンであるコルチゾールの日中の変動との関係が調べられました。
その結果、自宅を「散らかっている」「やりかけのことが多い」と表現した人では、コルチゾールの低下が緩やかになりやすい、つまり1日の変動の傾きが平坦になる傾向が見られました。
通常、コルチゾールは朝に高く、夜に向かってしっかり下がっていくのが健康的なパターンです。
しかし、この低下がゆるやかになると、夕方以降もストレス状態が続いている可能性があり、慢性的なストレスや心身の不調と関連すると考えられています。
つまり、散らかった環境は単なる気分の問題ではなく、ストレス反応が長く続きやすい状態と結びついている可能性があるのです。
この話は、日常感覚で考えると分かりやすいかもしれません。
部屋に物が多く、やりかけの物事が目に入り続けると、それだけで心が休まりにくくなります。
机の上に未処理の紙が積み重なっていると、座っただけで少し疲れてしまうのではないでしょうか。
一方で、整った空間は余計な情報を減らし、心を落ち着かせます。
片付けると「気分がいい」と感じるのは、単なる性格の問題ではなく、環境が私たちのストレスの感じ方に関わっているからかもしれません。
さらに、心理学者たちの言葉からも片付けのメリットを理解できます。次項で見てみましょう。
片付けは「集中しやすい頭」を作る
パウェルスキー氏らは、片付けは集中のしやすさにも関係する可能性があると説明しています。
ここで鍵になるのが、心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー」という考え方です。
これは、何かに深く集中し、時間を忘れるほど没頭している状態を指します。
スポーツや読書、楽器の練習などで、気づいたらあっという間に時間が過ぎていたという経験が近いでしょう。
こうした状態に入るには、注意を一つのことに向けやすい環境が必要です。
ところが、部屋が散らかっていると、目に入る物が次々に注意を引きます。
机の上の書類、出しっぱなしの小物、開いたままのパソコン画面などは、どれも集中を乱すきっかけになりえます。
つまり、散らかりは単なる見た目の問題ではなく、注意を散らしやすいノイズのように働くと考えられます。
さらにパウェルスキー氏らは、物が多いことは「選ぶことの多さ」にもつながると説明されます。
社会心理学者バリー・シュワルツは、選択肢が多すぎると、かえって人は決めにくくなることがあると論じました。
これを「選択のパラドックス」と呼びます。
例えば、服がぎっしり詰まったクローゼットの前で、何を着るか決めるだけで時間がかかることがあります。
物が多いほど、私たちは知らないうちに小さな判断を何度も迫られるのです。
片付けによって不要な物が捨てられ、整理されると、こうした細かな迷いが減り、本当にやるべきことに意識を向けやすくなります。
これらを考慮すると、部屋の片付けは、単に見た目をきれいにするだけの作業ではありません。
それは、心を落ち着かせ、集中しやすくするための環境づくりでもあるのです。
参考文献
Clear Space, Clear Mind: The Science Behind Decluttering
https://www.psychologytoday.com/us/blog/happy-together/202603/clear-space-clear-mind-the-science-behind-decluttering
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

