【スージー鈴木の週刊歌謡実話第28回】
山口百恵『美・サイレント』
作詞:阿木燿子
作曲:宇崎竜童
編曲:萩田光雄
1979年3月1日発売
Adoに顔出しは必要なかった
「あのAdoがついに顔出し!?」と話題になったのでした。
何でも、最近リリースした『ビバリウム』という曲のMVで「覆面シンガー」として広く知られる女性シンガー・Adoの顔が映し出されているというではないですか。
「一体、どんな顔だろう?」と思い、早速ユーチューブで確認したのですが、期待外れというか、ある意味予想通りというか、顔はチラッチラッと一瞬映る程度。「顔出し」という評判はさすがに大げさ。誇大広告ならぬ「誇大評判」なのでした。
でも「Adoは顔出しなんて、しなくて良かった」と私は思ったのです。
というのは、こういうのって、隠しているうちが花。分かってしまうと、一気に盛り下がるもの。だって、47年前のあの曲、あの「伏せ字歌謡」なんて、まさにそうだったのですから――。
そう、私はAdoの一件で、山口百恵『美・サイレント』(1979年)を思い出したのでした。
この曲、実に奇妙な曲で、歌詞の一部が伏せ字になっている。で、その伏せ字部分を歌番組でどうするかというと、山口百恵は声を出さず、口だけをパクパクと動かすのです。
また伏せ字の前後が、こんな感じ。
「あなたの○○○○が欲しいのです」
「燃えてる××××が好きだから」
「生きてる××××が見たいから」
と、ぶっちゃけていえば、ちょっとエロい内容を感じさせるものだから、当時中学1年だった私の周辺は、まぁ盛り上がりましたよ。ていうか、遠足のときに、エロい名詞を入れて歌いましたよ。本当にスイマセン。
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伏せ字解禁した『ザ・ベストテン』の衝撃
そもそも、宇崎竜童作曲、阿木燿子作詞による山口百恵の曲には、変な曲が多かったのでした。
タイトルからして「巻き戻し再生歌謡」の『プレイバックpart2』、「♪はっきりカタをつけてよ」と啖呵を切る「恫喝歌謡」の『絶対絶命』(ともに’78年)など、コミックソングすれすれ。そしてこの「伏せ字歌謡」!
そんな策略に、私含むみんながまんまと乗せられた結果、30万枚を超えるヒットとなったのです。
しかし。人気音楽番組=TBS系『ザ・ベストテン』が余計なことをしてくれました。伏せ字は「情熱」「ときめき」という言葉だと解明。曲が伏せ字部分に来ると、それらの言葉をテロップに出して放送したのです。
その瞬間のがっくり感たらありません。なぜなら、エロい名詞を入れて盛り上がっていたのは、分からないからですよ。分かってしまったら一巻の終わり。それも「情熱」「ときめき」みたいな普通の言葉だったなんて――。
と、47年前、一気に興ざめしたことをAdoの一件で思い出したのでした。
『美・サイレント』の伏せ字は解読しないほうが良かった。だからAdoも顔出しなんてしないほうがいい。隠しているうちが花なのです。何事も。
「週刊実話」4月2・9日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
