日本代表DF伊藤洋輝は負傷に苦しんだ時期からようやく解放されている。所属するバイエルンで25年11月にメンバー入りすると、83分から途中出場。238日ぶりのピッチだった。その復帰をクラブ関係者全員が喜んでいた。
8か月もの間、戦列を離れていただけに、スポーツディレクターのクリスフトフ・フロイントは、「ここまでのプロセス全体において非常に慎重に進めてきた」と今回の復帰には、相当慎重な姿勢を示していた点を強調。
復帰戦から3か月近くが立ち、そこからリーグ10試合、CL3試合に出場し、スタメンでは5試合に起用されている。フロイントは「本当に優れたサッカー選手だ。戻ってきてくれたことをとてもうれしく思っている。これから重要な存在になるだろう」とコメントを残していたが、世界屈指のメガクラブで、静かに自らの存在価値を確立しつつある。
ビンセント・コンパニー監督の就任直後は、3バックの併用も予想されたが、ここまでの采配を見る限り、基本形は4バック。左CBと左SBでプレーでき、安定感とビルドアップ能力の高さを併せ持つ伊藤の価値は明確だ。
現在バイエルンではフランス代表ダーヨ・ウパメカーノとドイツ代表ヨナタン・ターがレギュラーCBコンビとして盤石なプレーを見せ、韓国代表キム・ミンジェが控えている。
CBに求められるのは、単なる対人の強さや身体能力だけではない。圧倒的な攻撃力を持つチームだからこそ、敵陣深くへ押し込み、相手はスピードある選手を活かしたカウンターから反撃を試みることが多い。CBにはカウンターリスクを減らすためのポジショニングと判断力、そして数的同数、場合によっては数的不利な状況でも守り切れる対応力が大きな価値を持つ。
派手さはいらない。大事なのは守備ラインの統率、自分たちがボール保持をもっている時の守備判断、そしてチーム全体を安定させる存在感。現代CBに求められる要素全てが必要になる。
伊藤にもラインを安定させ、味方の立ち位置を整え、チーム全体のバランスを保つことが求められる。最後のところで失点を防ぐことも大事だが、失点の可能性そのものを低く抑えるための守備を機能させられるかが重要になる。
攻撃時、ビルドアップからの展開力や状況に応じた推進力も欠かせない。ウパメカーノ、ターの二人とキムとでは、この点で大きな差がある。相手が激しいプレスに来ても、攻撃を止めないための判断ができるかどうか。一気に状況を変える決定的なパスを狙うのか、最も安全で再現性の高いルートを選ぶのか。前線には世界屈指の個が揃っている以上、そこへいい形でボールを届けるためのベースをCBは作らなければならない。その点、伊藤のこの辺りのバランス感覚と一つひとつのプレー精度はシュツットガルト時代から長けており、コンパニー監督からの信頼は高い。
SBでは役割も変わる。左SBにはカナダ代表アルフォンソ・ディビス負傷離脱時に、オーストリア代表コンラード・ライマー、クロアチア代表ヨシップ・スタニシッチ、ドイツ代表トム・ビショップといった選手がそれぞれプレー。
タッチライン際の上下動だけではなく、よりバリエーション豊かにパスを引き出すプレーが期待されているのがSBのポジション。味方とのポジションチェンジをうまく活用しながら、ワイドに開いてボールを落ち着けたり、ハーフスペースに入り込んで相手守備を揺さぶりながら、起点を作り出したり、逆サイドから攻撃が構築されるシーンでは、左FWへのパスコースを常に確保しながら、うまく前のスペースに侵入してラストパスやシュートを狙う。
ディビス以外は、本職左SBの選手ではない。それだけに攻守両面で成熟度の高い伊藤への期待は自然と高まる。伊藤は守備的な選手と思われているが、シュツットガルト時代はタイミングよく相手陣内の高い位置まで攻め上がることがうまく、パスを引き出し、攻撃をスムーズに機能させていた。状況に応じてペナルティエリア内にも侵入し、チャンスシーンにも絡んでいく。加えて左足からの高精度キックがいろんなアクセントをつけられる。味方との距離感、背後の管理、下げる判断と保つ判断がクレバーなのもいい。
負傷から復帰したディビスが再び負傷離脱したことで、伊藤の出場機会はこれまで以上に増えてくるはず。バイエルンで積み重ねる経験は、日本代表にとっても大きな意味を持つ。このタイプのCBは、リーグ戦以上に、短期決戦の国際大会でこそ価値を発揮する。一つの判断、一つのミスが試合の行方を左右するワールドカップの舞台では、リスクマネジメントと状況に応じたプレーの最適化が欠かせない。ゴールを狙う積極性が守備バランスの乱れにつながることもある。試合展開に応じてやるべきプレーに様々なバリエーションで対応できる選手がピッチ内にいると、大会を通してチームの安定を支える存在になりうるだろう。
冷静さと適切な判断力を持つ伊藤は、W杯という極限の舞台でこそ、日本がブレることなく戦い抜くための重要なピースとなっていく。
文●中野吉之伴
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