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「幸せになったら書けなくなる?」又吉直樹と50歳漫画家が本音で語った創作と幸せの関係性

「幸せになったら書けなくなる?」又吉直樹と50歳漫画家が本音で語った創作と幸せの関係性

結婚して幸せになったら、もう書けなくなるのか――。新刊が話題の作家・又吉直樹さんと漫画家・中川学さんが、「創作」と「幸せ」の関係について本音で語り合った。欠落や失敗、人間の弱さに向き合いながら表現を続ける二人が、その葛藤の正体を見つめる。(全3回の3回目)

幸せになると、書けなくなるのか

――世の中には「創作者は幸せではないほうが面白い作品がつくれる」という考え方があると思います。結婚は幸せの象徴のようにとらえられがちですが、ものを描く/書く人間として、結婚して幸せになることを恐れるような感覚はお二人の中にありますか?

中川 
僕はあるかもしれないです。自分の体験をそのまま作品にするエッセイ漫画家なので、平凡な日常だけになってしまうとなんにもネタがなくなってしまうんですよね。又吉さんの前で言うのもおこがましいですけど、物語って葛藤じゃないですか。

今の自分に何か欠けているものがあって、それを欲するがゆえに壁があって、乗り越えようとするから葛藤が生まれる。だから、現時点が満たされていて幸せだと、描くのはなかなか難しくなるのかなと思います。

又吉 そうか、エッセイ漫画というジャンルだと、自分がいろんな経験をしていかないとダメですもんね。でも飛ばしすぎても多分ダメなんですよね? 急にJリーグの入団テストを受けに行くとか、嘘すぎると「そんなはずないやろ」になっちゃいますもんね。

中川 それはそれで面白いです(笑)。創作の場合は、自分自身の体験や状況と作品の関係はまた違いますよね?

又吉 フィクションやったら、別に自分が幸せであってもダメな人間や大変な状況にある人間を描くことはできると思います。ただ、創作の意義そのものが若干薄まるような気はしますね。表現欲求みたいなものがどこから来てるのかを考えたら、やっぱり自分のしんどさとかから来てるような感じがしてて。

だからフィクションとはいえ、そういう恐れみたいなものはちょっとあるかもしれないです。完全に満たされたときに、どうなってしまうんやろう、って。まぁ結婚したところで完全に満たされることはないんでしょうけど、したことないからわからないですしね。「もし幸せになってしまったら」って部分はあると思います。

中川 やっぱりそれはあるんですね。

又吉 それと、中川さんがおっしゃったように、うまくいってる人は余裕が生まれるから悩みにくいし、葛藤しないですよね。正解を引き当てやすいというか。そうなると、ポジティブな良い状態、素敵な状態をわりと保てると思うんですよ。

でも、良くないことがあって焦ったときに迷いが生まれて、選択を誤ってドツボにハマってまた間違えて余裕がなくなって……って場面でどう振る舞うか、どう考えるかに人間の限界とか本質みたいなものが出てきやすいんじゃないかなと僕は思ってて。

まぁ人間って多面的な生き物やと思うんで一概には言えないですけど、そういうことを考えると「ちゃんとしすぎたらあかん」とか思ってしまうのかもしれないです。

欠落や失敗の先にしか見えない、人間の本質がある

――欠落や失敗からこそ生まれてくるものがある、と。

又吉 
でも、世間の人がそんなダメ人間の創作を求めている時代でもないですからね。もっとポジティブでためになる、素敵な自分が共感できるものが求められてるじゃないですか。我々みたいな負のループの創作活動を続けてる人は減りつつあるんで(笑)。だから別に、商売としてダメさを売ってるわけでは決してないんですよ。

ただ、もうそろそろ、ネクストステージに行ってみたい気はしてます。幸せな自分が幸せな物語を書くこともできるかもしれんし、「やっぱダメだった」になるかもしれんし。変化を恐れずにやっていきたいなと思ってます。

中川 今日は僕の漫画の話ばかりになってしまってすみません! 又吉さんの新刊『生きとるわ』を読ませていただいて、その話もしたかったんですが……。

――中川さん、本に大量に付箋を貼ってらっしゃいますね。

中川 
せっかくなので、一個だけいいですか。

又吉 はい、ぜひぜひ。

中川 『生きとるわ』を読んで、「人間が“近い”」と思いました。僕は北海道出身なんですけど、北海道の人ってめっちゃ“遠い”んですよ。家と家も物理的に遠いし、人の心の距離も結構クールで。だから大阪の“近さ”に憧れもありつつ、ずっと怖さも感じてるんです。

大阪の人としゃべったりテレビで大阪の人の話を聞いたりするたびに、他人の心にここまで近づく感じは結構怖いな、って。「僕が今大阪に転校したら、めちゃめちゃいじめられる、いや、いじられるんだろうな」っていつも想像してました(笑)。

又吉 たしかに、距離が近いですよね。僕は18歳まで大阪にいたんですけど、大阪の人のいわゆる「我々は大阪人である」って集団の意識みたいなものがちょっと苦手やったんです。一人ひとりは優しいのに、“大阪人”を背負ったときが厄介やな、って。

ただ、大人になってから、その“大阪人意識”ってサービス精神と言い換えることもできるんやと感じるようになりました。「みんな、サービスでやってくれてたんや」って。子どもの頃はそれを受け取れなくて「なんか嫌やな」って感じていたけど、「結局この人たちは優しいんだ」って思ったんですよね。

集団のときと一人のときで優しさのやり方を変えてるだけで。それは今回、大阪を舞台にした理由の一個です。

中川 主人公の岡田が高校の同級生たちとスナックに飲みに行く冒頭だけでも、「こんなん岡田好きやろ」って友達の言い回しとか、常連の定ちゃんとママの「ママ、同じのおかわり」「どれと同じやねん」ってやりとりとか、「あ、すごい大阪だ!」って思いました。大阪の“ツレ”同士の会話の感じだな、って。

又吉 そうかもしれないですね。今回、大阪に行って酒場に一人で繰り出して人の会話を聞くとか、結構やったんですよ。だから、そういう大阪ならではの話法みたいなものが出てたらうれしいですね。

#1「いいなと思っても、二度見知りしてしまう、結婚できないおじさんの悲哀」から読む

取材・文/斎藤岬 撮影/井上たろう

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