農作業がコート上の強さに。米作りで磨かれる結束力
農作業着を脱ぎ、プロの顔へ。大多喜の土の上で鍛えた体に、アスリートの鋭さを宿すphoto by Yoshio Yoshida
フィジカル面だけで見れば、肉体労働直後の練習はパフォーマンス低下のリスクすらある。実際、「練習前にヘトヘトになってしまい、集中できない」という声が上がったこともあったという。それでも彼らがコートに立ち続ける理由はどこにあるのか。 それは、他のチームにはない「圧倒的なチームワーク」と、逆境で培われた「メンタルタフネス」だ。
一般的な3x3チームは、普段は別々の仕事を持ち、週末だけ集まって練習や試合をするケースが多い。対してesDGz OTAKI.EXEは、毎日顔を合わせ、泥にまみれて共に汗を流し、その後に練習を行う。
泥にまみれて培った結束力は、コート上での「粘り強さ」に変わる。苦楽を共にする時間が、チームを何よりも強くするphoto by Yoshio Yoshida
「他のチームが週に数回しか会わないのに対し、僕たちは仕事中もずっと一緒です。『あそこのコンビネーション、こうしようぜ』という会話が、田植えや草刈りの最中の雑談から自然と生まれるんです。苦しい農作業を共に乗り越えることで生まれる結束力は、コート上での粘り強さに直結しています」と遠藤選手は胸を張る。
また、何もない田舎だからこそ、メンバー間のコミュニケーションは密になる。他愛のない話から、試合の真剣な反省会まで、共有する時間の長さがチームの土台を強固にしているのだ。
「練習も業務時間」。 デュアルキャリアを持続させる仕組み
「農業の合間」ではない。企業が整えたプロとしての環境が、3x3の激しい攻防を支えている写真提供:株式会社JPFagri/SDGs大多喜学園
精神論だけで、プロスポーツとの両立は続かない。彼らの活動を支えているのは、会社として整備された「働く環境」と「生活保障」の仕組みだ。ここには、JPFグループが設計した持続可能なモデルの真髄がある。
最大の特徴は、「チーム練習が業務時間に含まれている」という点だ。 通常、実業団などの選手は、8時間のフルタイム勤務を終えた後に個人の時間で練習を行うことが多い。しかし彼らの場合、例えば朝8時から15時まで農作業を行い、15時から17時までの2時間は「業務としてのチーム練習」に充てられる。 給与が保証された状態で、質の高い練習時間を確保できることは、アスリートにとって大きなメリットだ。
さらに、業務体系にはフレックス制が導入されている。 「天候や試合日程に合わせて、柔軟にスケジュールを組めるのが大きいです。例えば、遠征の翌日はスタートを遅らせたり、農作業が長引いた日は練習時間をずらしたり。チーム全体で動いているからこそ、現場判断で臨機応変に対応できます」(遠藤選手)
そして、地方移住の最大のハードルとなる「住まい」と「足」についても手厚いサポートがある。 「住居は会社が探して手配してくれますし、家賃の約9割を会社が負担してくれる制度があります。移動に必要な社用車の貸し出しもあり、生活の基盤が最初から整っている。だからこそ、僕たちのような若者が身一つで飛び込んでこられるんです」
単に労働力を提供させるのではなく、一人の人間として豊かな生活を送れるように設計されたこのシステムこそが、前例のない挑戦を支える屋台骨となっているのだろう。
esDGz OTAKI.EXE。その名前には、持続可能な開発目標(SDGs)への意識が込められている。 一枚目の写真の米袋は、大多喜町へ移住し、住民の一人として生きてきた彼らの「生活の証」そのものだ。この「大多喜モデル」がさらに定着していけば、全国の過疎地域で、スポーツが課題解決の旗印になる日が来るかもしれない。後編では、「大多喜モデル」がどのように進化していき、地域にどのような影響を与えたかを紹介する。
text & photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社JPFagri/SDGs大多喜学園
