
古びた廃墟の床に転がる、泥まみれのVHSテープ。
それはただのゴミのように見えますが、中にはかつて誰かが記録した「時間」が閉じ込められています。
では、その中には何が写されているのでしょうか?
この疑問に真正面から挑んだのが、アメリカ・ジョージア州のYouTuber、ブレイディ・ブランドウッド(Brady Brandwood)さんです。
彼は10年以上も風雨にさらされていたVHSテープやCDを回収し、実際に修復・再生する実験を行いました。
実際の映像とともに見てみましょう。
目次
- 廃墟に残された記録を掘り起こす
- 再生された映像が語る「記録の生命力」
廃墟に残された記録を掘り起こす
ブランドウッドさんは、ジョージア州の森林地帯にある放置された住宅を訪れます。
そこは床がきしみ、木材が腐り、家具が散乱した不気味な空間で、まるでゲーム『バイオハザード』の舞台のような雰囲気でした。
彼がこの場所に戻ってきた理由はただ一つ、以前見つけた「VHSテープ」の存在です。
【ブランドウッドさんが回収したVHSテープの画像がこちら】
床や棚に無造作に散らばっていたそれらは、土や埃にまみれ、長い年月を経て完全に劣化しているように見えました。
回収されたのは複数のVHSテープと数枚のCDです。
中にはエルヴィス・プレスリーの写真が印刷されたCDや、「The Blind Side」と手書きされたディスクも含まれていました。
しかし問題は、それらが再生できるかどうかです。
ブランドウッドはVHSプレーヤーすら持っていなかったため、リサイクルショップを巡って機器を入手し、ようやく再生環境を整えます。
しかし当然ながら、泥に覆われたままの状態では、テープもCDもまったく動作しませんでした。
そこで彼は、テープの外側を拭き取り、さらにケースを開けて内部まで清掃する作業に取りかかります。
中は想像以上にひどい状態で、カビが生え、土が詰まり、さらにはクモの巣として使われていた形跡まで確認されました。
つまりこれらのテープは、「保存状態が悪い」どころか、もはや自然環境の一部になっていたのです。
再生された映像が語る「記録の生命力」
徹底的な清掃の後、ついに再生の瞬間が訪れます。
最初は反応がなかったものの、再度セットすると画面がゆっくりと変化し、古いスウィング音楽が流れ始めました。
続いて現れたのは、山のロゴで知られるパラマウント・ピクチャーズのオープニング映像です。
さらに巻き戻して確認すると、そのテープにはカートゥーン・ネットワークのアニメ番組が録画されていました。
画質は荒れていたものの、確かに映像は再生されていたのです。
他のテープも同様に動作しました。
あるものは恐竜のドキュメンタリーらしき映像、別のものはロックンロール歌手ジェリー・リー・ルイスのコンサート映像で、彼が足でピアノを弾く姿まで確認されました。
こちらが実際の映像。VHSテープの再生は13分頃からと24分50秒頃からです。
一方で、CDはすべてが再生できたわけではありません。
劣化が進んだものは読み込まれず、コンピューターに弾き出されてしまいました。
この結果は、一般に「CDの方が長持ちする」と考えられてきた常識に疑問を投げかけます。
実際、専門家による研究でも、物理メディアの保存は大きな課題となっています。
ケンブリッジ大学図書館ではフロッピーディスクの読み取り技術の開発が進められ、アメリカ議会図書館ではCDの劣化速度を調べる実験が行われています。
いずれも、時間とともに失われていく情報をどう守るかという問題に直面しているのです。
これらの研究からも分かるように、メディアの寿命は単純な素材の違いだけで決まるものではありません。
保存環境や構造の違いが大きく影響します。そして今回の実験は、VHSテープが想像以上に「頑丈な記録媒体」である可能性を示しました。
消えかけた記憶を救うということ
今回の試みは、単なる好奇心から始まった個人の実験でした。しかしそこから見えてきたのは、「記録」というものの意外な生命力です。
誰かがかつて録画したテレビ番組や音楽映像は、長い年月を経てもなお、その形を保ち続けていました。
それは単なるデータではなく、過去の時間そのものが保存されていたと言えるでしょう。
デジタル化が進む現代において、古いメディアは時代遅れの遺物と見なされがちです。
ですが今回の結果は、そうした媒体が持つ意外な強さと、記録の価値を改めて示しています。
もしかすると、あなたの家の押し入れに眠っている古いテープにも、まだ再生できる「過去」が残っているかもしれません。
参考文献
Georgia man brings abandoned VHS tapes back to life
https://www.popsci.com/technology/man-restores-vhs-tapes-georgia/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

