■苦い思いを経て再起の1本となった『ハウス・オブ・ザ・デビル』

“アラン・スミシー名義(トラブルなどにより、監督作品として責任を負いたくない場合に使用される偽名)”を要求したことからもわかるように、『キャビン・フィーバー2』(09)では方向性の違いでプロデューサーたちと対立したウエスト監督。この苦い経験を経て、ハリウッドから距離を置き、自らがやりたいことを詰め込んだのが、2009年に手掛けた『ハウス・オブ・ザ・デビル』だ。

本作の舞台は、多くの人が悪魔崇拝者の存在を信じていたサタニックパニックに揺れる80年代のアメリカ。コネチカット州の田舎町、奔放なルームメイトとの寮生活に限界を感じた大学生のサマンサ(ジョスリン・ドナヒュー)は、家を借りる資金を稼ぐべく、構内に張り紙が出されていたベビーシッターのバイトに応募する。

皆既月食の夜、人里離れた立派な豪邸に足を運ぶと、そこで依頼主のウルマン(トム・ヌーナン)から、実は子守ではなく年老いた母親の面倒を見てほしいと明かされる。一晩で400ドルを提示されたサマンサは、怪しさを感じつつ依頼を引き受けるが、それは悪魔崇拝カルトが仕掛けた罠で…。
■繰り返し扱ってきた“サタニックパニック”というテーマ

多くのアメリカ国民が“残虐な悪魔崇拝者が子どもたちを誘拐し虐待している”などと信じ、実在しない脅威に対して司法やFBIまでが動く大騒動となった“サタニックパニック”。『MaXXXine マキシーン』(24)でもこの集団ヒステリーを扱い、“ポルノやホラー映画が悪魔崇拝の原因となる”と主張する人々によってハリウッドが糾弾される当時の様子を再現した。

また『サクラメント 死の楽園』(13)も、ジム・ジョーンズ率いる人民寺院が1978年に行った集団自殺事件がベースとなっており、カルト宗教による脅威という意味でサタニックパニックとも通じる題材を扱うなど、繰り返し映画内で示唆してきた。
■手法も徹底再現!作品に垣間見えるホラー映画への愛

そんな悪魔崇拝ものド真ん中とも言える『ローズマリーの赤ちゃん』(68)や悪魔と神父との戦いを描いた『エクソシスト』(73)を好きなホラー映画ベスト10に挙げるなど、70〜80年代を中心とするホラー映画をこよなく愛するウエスト監督。子どもの頃から、家の近所にレンタルVHSショップがあり、金曜の夜に5ドルで5本借りて月曜日にはすべて返すような日々を送っていたそうだ。
これまでにも『X エックス』(22)では『悪魔のいけにえ』(74)や『シャイニング』(80)などへのオマージュを捧げ、自分が受けた影響を映画に引用。“スラッシャー映画”と“屋敷もの”という2つのサブジャンルを組み合わせた『ハウス・オブ・ザ・デビル』でも、惜しげもなく70〜80年代のホラー愛をぶちまけている。

若者がベビーシッターのバイト中に恐怖に見舞われるという『ハロウィン』(78)よろしくのプロットはもちろん、冒頭で流れる“この映画は実際に起きた不可解な事件に基づいている”というテロップもまた『悪魔の棲む家』(79)など、“あの頃”のホラー映画でもよく見られたもの。
当時の映画の質感を再現するため『悪魔のいけにえ』などでも使われた16mmフィルムで撮影を行い、粒子が感じられる映像は雰囲気抜群。さらに人物へのズームインを多用したカメラワークでも往年のホラーのジワジワとした恐怖を浮かび上がらせる。

さらに衣装やヘアスタイルからタイトルのフォント、オープニングクレジットでの映像をピタッと止めるフリーズフレーム、ラストショットの上にそのまま流れるエンドクレジット…と、徹底的に当時の映画の手法を用いることであの頃のホラーを完全再現した。
■“マンブルコア”の人脈もフル活用!

そんな『ハウス・オブ・ザ・デビル』には、本作を機に“80年代ホラーの正統的継承者”として高い評価を得るジョスリン・ドナヒューや怪優トム・ヌーナンらが名を連ねているが、注目すべきは『バービー』(23)などの監督として知られるグレタ・ガーウィグとドラマシリーズ「GIRLS/ガールズ」のクリエイター、レナ・ダナムの存在。ガーウィグはサマンサの友人メーガン役として、ダナムは911オペレーターとして声で出演している
この2人といえば、ゼロ年代半ばにアメリカのインディー映画界で生まれた“マンブルコア”ムーブメントの代表格。即興演技やモゴモゴとした(mumble)会話を重視した、作り込まないリアルなスタイルが特徴であり、実はウエスト監督もこのムーブメントの中核を担ったジョー・スワンバーグ監督の『ドリンキング・バディーズ 飲み友以上、恋人未満の甘い方程式』(13)に出演するなど界隈出身の1人で、その人脈をフル活用した、彼の映画人としての出自が垣間見える1作だ。

撮影中に泊まっていた安ホテルでの奇妙な出来事がきっかけとなり、次作『インキーパーズ』(11)が生まれたという点でもウエスト監督のキャリアにおいて重要な意味を持っている『ハウス・オブ・ザ・デビル』。ぜひ劇場で彼の原点的1作を堪能してほしい。
文/武藤龍太郎
