
インスタグラムやTikTokを見ていると、あまりにも整いすぎた顔立ち、ぶれない世界観、そして毎回きっちり「刺さる」発信を続けるインフルエンサーに出会うことがあります。
ところが今、そうした人気者の中には、そもそも最初から「人間ではない」存在が混じり始めています。
代表例として知られるのが、インスタグラムで数百万人規模のフォロワーを持つバーチャルインフルエンサーたちです。
彼女たちはファッションブランドの広告塔になり、社会問題への支持を表明し、熱心なファンまで獲得しています。
しかし、その正体は人間ではなく、コンピューターで生成されたキャラクターです。
一見すると、これは「デジタル時代らしいユニークな現象」に思えます。
ですが今回の研究では、こうした存在は単なる珍しい話題ではなく、世界の文化がどのように作られ、広がり、管理されるかが変わりつつあることを示すサインだとされています。
研究の詳細は2026年2月16日付で学術誌『Fudan Journal of the Humanities and Social Sciences』に掲載されています。
目次
- バーチャルインフルエンサーはなぜここまで強いのか
- 多様に見えて、実は同じ仕組みで動いている
バーチャルインフルエンサーはなぜここまで強いのか
バーチャルインフルエンサーとは、人工知能やアニメーション技術、ブランド戦略を組み合わせて作られた、架空の人物です。
見た目は人間そっくりで、SNSでは実在のインフルエンサーと同じように活動します。
写真や動画を投稿し、企業とコラボし、フォロワーに反応し、ときには政治的・社会的な立場まで示します。
ただし彼らには、人間には避けられない「不安定さ」がありません。
体調を崩すことも、うっかり失言することも、突然イメージが崩れることもないのです。
発言も外見も更新頻度も、すべて設計できます。
こちらは米カリフォルニア州出身で、モデル活動をする音楽家(という体)のバーチャルインフルエンサー、リル・ミケーラ(Lil Miquela)のインスタグラムです。
フォロワー数は約250万人規模ですが、彼女はこの世に存在していません。
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ここが重要です。
バーチャルインフルエンサーの強みは、単に美しく作れることではありません。
プラットフォームのアルゴリズムに合わせて、最適な形で運用しやすいことにあります。
現在のSNSは、一定の頻度で、反応が良く、世界観がぶれず、拡散しやすい投稿を高く評価する傾向があります。
つまりアルゴリズムは、「人間らしい魅力」そのものより、「安定して成果を出せる発信」を好みやすいのです。
バーチャルインフルエンサーは、まさにそこにぴったりはまります。
たとえば実在の人なら、その日の気分や失敗、加齢、炎上リスクと切り離せません。
しかしコンピューター生成キャラクターなら、投稿内容も表情も服装も発言も細かく調整できます。
言ってしまえば、SNS時代に最適化された「崩れない広告塔」なのです。
その結果、アルゴリズムは単に人気コンテンツを選んでいるだけではなく、どんな人物像が広がりやすいかまで選別していることになります。
文化は人々の自然な交流だけで広がるのではなく、プラットフォームの仕組みに合った形へと削られ、磨かれ、流通するようになっているのです。
多様に見えて、実は同じ仕組みで動いている
研究では、こうした現象を「再グローバル化」の一例として捉えています。
これは、世界に広がる力と、地域ごとの個性が同時に存在しているように見えながら、その裏では同じプラットフォーム論理が働いている状態を指します。
たとえば欧米的な洗練された雰囲気をまとうキャラクターもいれば、中国の伝統的な美意識を取り入れたキャラクターもいます。
中国で作られたバーチャルインフルエンサーの「柳夜熙(リウ・イエシー)」の紹介動画がこちら。
音量に注意してご視聴ください。
表面だけ見れば、それぞれ異なる文化を代表しているように見えるでしょう。
ところが深く見ると、どちらも企業が所有し、アルゴリズムで拡散され、商業的な成功のために設計されている点では同じです。
つまり、ローカルな個性が尊重されているように見えても、その表現は上から管理された「演出」であるのです。
文化の多様性が増しているように見えて、実際には少数の巨大テック企業やブランドが、何を魅力的に見せ、何を広めるかを握っている。
これはかなり大きな変化です。
さらに気になるのは、こうしたバーチャルインフルエンサーが社会運動や政治的価値観についても発信する点です。
たとえば人種差別反対や性的少数者への支持を表明すれば、表面上は「良いことを言っている」ように見えます。
しかし、その発言が本当の信念から出たものではなく、企業にとって好ましいイメージや収益性を意識して設計されているならどうでしょうか。
このとき私たちが触れているのは、人間の信念ではなく、商業的に最適化された価値観かもしれません。
しかもフォロワーは、そうした存在に対して本物の有名人や架空の登場人物と同じような感情的つながりを抱くことがあります。
気づかないうちに、「会議室で設計された人格」に親近感や信頼を寄せてしまうわけです。
これは単なる広告の話ではありません。
どの価値観が広まり、どの世界観が自然に見えるかを決める力が、アルゴリズムと企業の側に集中していくということだからです。
今はまだバーチャルインフルエンサーを見分けられても、技術がさらに進めば、見分けること自体が難しくなる可能性があります。
最後に
実在しないのに数百万フォロワーを集めるインフルエンサーの登場は、未来の奇妙な小話ではありません。すでに始まっている文化の変化そのものです。
これまで私たちは、人気者とは「多くの人に支持された人間」だと考えがちでした。
しかしこれからは「アルゴリズムに最も好まれるよう設計された存在」が、その座を奪っていくのかもしれません。
もしそうなら、私たちがSNSで見ている流行、共感、正しさ、親しみやすさの一部は、自然発生したものではなく、精密に作られた結果ということになります。
バーチャルインフルエンサーは、単にハンドバッグや化粧品を売る新しい広告塔ではありません。
誰が文化を動かしているのかを、静かに突きつける存在なのです。
参考文献
The influencers with millions of followers who don’t actually exist
https://phys.org/news/2026-03-millions-dont.html
元論文
Digital (Global) Capitalism and Re-Globalization
https://doi.org/10.1007/s40647-026-00462-x
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

