
温暖化によって南極の氷が溶けることは大きな問題です。
しかしその変化には、別の側面もあります。
氷の下に眠っていた鉱物資源が、将来は表に現れてくるかもしれないのです。
米国のカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)などで構成される研究チームは、温暖化によって南極で氷のない土地が大幅に増え、そこに分布する鉱物資源がこれまでより見つけやすく、近づきやすくなる可能性を示しました。
研究の焦点は、単に氷がどこまで後退するかだけでなく、氷が消えたあとに地面そのものが持ち上がる点まで含めて将来を予測したことにあります。
詳細は、2026年2月20日付の『Nature Climate Change』に掲載されています。
目次
- 2300年までに南極大陸の大地は「今の550%」露出する
- 「露わになる資源」は誰のものか
2300年までに南極大陸の大地は「今の550%」露出する
南極と聞くと、白い氷がどこまでも広がる世界を思い浮かべる人が多いでしょう。
ですが実際の南極は、氷の下に山や谷、峡谷、火山まで隠れた、れっきとした大陸です。
つまり、氷が後退すれば、そこから地面が現れてきます。
これまでも、温暖化で氷床が縮小し、氷のない土地が増えることは予想されてきました。
ところが、従来の予測には見落とされがちな点がありました。
氷はただ後退するだけではなく、その重みで押さえつけられていた地面が、氷の減少とともに少しずつ持ち上がるのです。
これは「氷河性地殻均衡」と呼ばれる現象です。
重い荷物を長く置いてへこんだクッションが、荷物をどけるとゆっくり戻っていくようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
南極ではこの変化が何百年という時間をかけて起きています。
今回の研究は、この地面の隆起に加えて、海面の変化も同時に組み込みました。
氷が溶ければ海面は上がりますが、一方で地面も持ち上がるので、最終的にそこが陸として現れるのか、それとも海に覆われるのかは、両方を合わせて見なければ分かりません。
研究チームは、海面変動モデルと氷床融解予測を組み合わせ、温室効果ガスの排出量が異なる複数の条件で、南極の将来の地形を計算しました。
その結果、最も氷の融解が進む条件では、2300年までに最大で約12万平方キロメートルの新たな氷のない土地が現れる可能性があると示されました。
これは現在の南極における氷のない土地の面積の550%です。
しかも、新しく露出する土地は一部の地域だけではなく、既に領有権が主張されている地域にも、西南極の未主張地域にも広がると見込まれています。
ここで重要なのは、この研究が「南極の氷が減る」という話を、単なる景観の変化としてではなく、「地面がどこまで現れるか」という、もっと現実的な問題として描き直したことです。
南極は、これまで見えていなかった大地が姿を現す場所でもあるのです。
そしてこの「露出」は、世界の資源に大きく関わってきます。
「露わになる資源」は誰のものか
新たに現れる土地には何があるのでしょうか。
研究者らは、そうした地域の地質や既知の鉱物産出情報から、銅、金、銀、鉄、プラチナなどの鉱物資源が新たに露出する可能性があるとしています。
これらは工業や製造業にとって重要な資源であり、経済的価値も高いものです。
これまで氷の下にあって開発の現実性がきわめて低かった資源が、将来は見つけやすく、近づきやすくなるかもしれないのです。
もちろん、これは「すぐ採掘できる」という意味ではありません。
研究者らは南極が今後もきわめて厳しい環境であり続けることを強調しています。
寒さ、風、輸送の難しさ、インフラの不足を考えれば、資源が見えるようになったからといって、ただちに掘りに行けるわけではないのです。
ただ、それでも意味は大きいのです。
なぜなら、これまで遠い話だった南極の資源が、将来は経済的に検討対象になりうると示されたからです。
ここで避けて通れないのが、「南極は誰のものなのか」という問題です。
南極ではイギリス、チリ、アルゼンチンなど複数の国が領有権を主張していますが、南極条約はそれらの立場をいったん棚上げし、新たな主張や主張の拡大を認めない仕組みを取っています。
南極は軍事利用ではなく平和目的に限って使われ、科学研究の国際協力の場として扱われてきました。
さらに重要なのは、南極の鉱物資源に関する活動は、科学研究を除いて原則として禁止されている点です。
それでも南極条約及び議定書は2048年以降に改訂が可能になるため、何らかの動きがあるかもしれません。
今回の研究が重い意味を持つのは、温暖化が単に自然環境を変えるだけでなく、国際ルールの前提まで揺さぶりかねないことを示しているからです。
氷の下に隠れていた資源が現実味を帯びれば、領有権を主張する国々や資源確保を重視する国々の関心は、これまで以上に強くなるでしょう。
一方で、だからこそ環境保護を優先すべきだという声も強まるはずです。
南極は今後、資源を前にして「世界が試される場所」になるのかもしれません。
温暖化は大地と資源、そしてそれをどう扱うかという人類の価値観まで、表へ引きずり出すものなのです。
参考文献
Warming Climate Could Expose Antarctica’s Hidden Trove Of Precious Metals
https://www.zmescience.com/science/warming-climate-could-expose-antarcticas-hidden-trove-of-precious-metals/
As Ice Recedes and Land Rebounds, Antarctica’s Mineral Resources Come into Focus
https://eos.org/articles/as-ice-recedes-and-land-rebounds-antarcticas-mineral-resources-come-into-focus
元論文
Emergence of Antarctic mineral resources in a warming world
https://doi.org/10.1038/s41558-026-02569-1
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

