
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
【画像】え、「マジで」「怖ッ」 コチラが『ばけばけ』本当は史実で「コレラ大流行」が起きていた場面です
松江もコレラに襲われていた
2026年前期の連続テレビ小説『風、薫る』では、第4話にして主人公「一ノ瀬りん(演:見上愛)」の父「信右衛門(演:北村一輝)」がコレラによって亡くなりました。江戸時代末から日本でも流行り始めたコレラは、明治時代に何十万人もの命を奪った伝染病です。実は前作『ばけばけ』でも、ドラマ内ではカットされていたものの、史実ではコレラが大流行していた場面がありました。
『風、薫る』の原案である、歴史学者の田中ひかるさんの著書『明治のナイチンゲール 大関和物語』を読むと、りんのモデルで日本の看護婦の地位を向上させた女性、大関和(おおぜき・ちか)の父・大関弾右衛門が、1876(明治9)年5月に流行り病で亡くなったことが書かれています。同書によると、コレラが和の故郷・黒羽藩(現:栃木県大田原市)の地域で流行ったのは1879(明治12)年のことですが、ドラマではここを繋げて父の死因をコレラということにしたのでしょう。
厚生労働省のHPにある「明治期におけるコレラの患者数及び死亡者数の推移」のグラフを見ると、「虎列刺(コレラ)病予防仮規則」が制定された1879年に、国内の患者数が16万2637人、死者が10万5786人もいたことが分かります。
その後も何度かパンデミックがあり、1890(明治23)年にも長崎県からコレラが侵入して患者数4万6019人、死者3万5227人という惨事が起きています。これは、『ばけばけ』の主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」のモデルである文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が、島根県尋常中学校(松江中学)の英語教師として松江にやってきた年でした。
そのハーンは、来日後初の著作『知られぬ日本の面影』(1894年)で、とある肝心な時に松江でコレラが猛威を振るっていたことを書いています。
それは1891(明治24)年11月15日、ハーンがトキのモデルである妻・小泉セツほか家族とともに愛する松江を離れ、熊本に移住する前後のことでした。『ばけばけ』では第19週で描かれた場面です。ハーンは『知られぬ日本の面影』の「さようなら」という項のなかで、
「師範学校(ハーンは松江中学以外に師範学校でも英語を教えていた)送別会からまだ四日しか経っていないというのに、残酷な災禍が運命の扉を封じ、生徒たちを地方へ散りじりに疎開させてしまった」
「中国の船によって日本に持ち込まれたと見られるコレラが、市内のあちこちで猛威を振るい師範学校もその例外でなかった。発生して間もなく、何人かの生徒や教師が伝染病の犠牲になった」
と、熊本へ発つ前の当時の危険な状況を綴っています。
ハーンは当然ながらコレラが流行っている時期に生徒たちを危険にさらせないと、出発日にみんなが見送りに来るのを断ったものの、15日当日には朝から家(小泉八雲旧居)の前に200人の学生、教員が集まったそうです。「錦織友一(演:吉沢亮)」のモデルである親友・西田千太郎は、持病の結核の悪化によって来られなかったものの、ハーンは大切な人びとに見守られながら松江を旅立っていきました。
『ばけばけ』でコレラの話を入れると、登場人物の誰かが倒れる、死亡するなどの場面を入れる必要が発生するほか、19週95話の最後で錦織が喀血するシーンがぶれてしまう可能性もあるので、史実の改変は致し方ないでしょう。
一方、朝ドラとはいえ『風、薫る』は看護婦たちを中心とした医療の話のため、今後もコレラの話題は何度も出てきそうです。詳細は伏せますが、原案『大関和物語』にもコレラに関する記述がいくつもあるので、これからまた辛い場面が描かれるかもしれません。
※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」
参考:『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社)、『新編 日本の面影』(KADOKAWA)
