4月3日(金)に劇場公開された映画『俺たちのアナコンダ』。パニック映画『アナコンダ』(1997)のリメイク版制作のためジャングルを訪れた男たちが、大蛇と遭遇してしまう姿を描くコメディだ。昨今、1980〜90年代作品のリメイク、リブートが相次ぐ中、本作は「リブートはネタ切れ」と揶揄する声を吹き飛ばす全世界興収1億3000万ドル超のメガヒットの快作である。
主演を務めるのは、ジャック・ブラックとポール・ラッド。ハリウッドのコメディ俳優の2巨頭が、そのキャラクターを存分に発揮し、笑いと悲哀とちょっとした人生の喜びを我々に与えてくれる。
登場人物すべてがバカで愛おしい
少年時代から映画が大好きなダグ(ジャック・ブラック)とグリフ(ポール・ラッド)。なかでも愛してやまない唯一無二のバイブルが『アナコンダ』(1997)だ。ダグの誕生日パーティで再会した2人は、一念発起して長年の夢”『アナコンダ』のリメイク版”の制作に動き出す。2人は幼馴染の幼馴染のクレア(タンディウェ・ニュートン)とケニー(スティーヴ・ザーン)を引き連れ、意気揚々と物語の舞台・南米アマゾンへと向かう。低予算ながら順調に撮影を進めていたのも束の間、グリフが誤って主役のヘビを殺してしまったから、さぁ大変。代役を求めジャングルの奥地へ向かうが、本物の大蛇、アナコンダと遭遇する‥‥。
ジャック・ブラック演じるダグは、映画監督を夢見ていたけれど、現在は、地元で結婚式ビデオを制作するディレクターとして生計を立てている。ポール・ラッド演じるグリフは、ハリウッドに移住したけれど、俳優としては鳴かず飛ばず。一言のセリフにダメ出しを喰らいクビになるベテラン世代。『アナコンダ』のリメイク版制作は、どこかうまくいかない人生を送ってきた40代を迎えた彼らにとって、青春時代の再来だ。
ともにハリウッドの成功者である彼らが、夢破れたくすぶりおじさんを演じていることの面白みが、まずある。そして、そんな2人が大真面目に「アカデミーはテーマ性のあるホラーを好む」「ダグ! 白人版ジョーダンピールになれるぞ!!」「ショービジネスは裏切りの連続だ」「ハリウッド映画は行き当たりばったりだ」なんてメタセリフをマシンガンのように放つからたまらない。
しかしながら、本作は主演の2人にみんながかき乱される、といった内容ではない。ダグとクリフの幼馴染で、グリフの元彼女クレア(タンディウェ・ニュートン)、ダグの映像制作会社でカメラマンとして働くケニー(スティーヴ・ザーン)も無謀なリメイク制作への挑戦にノリノリで参加し、トラブルを起こす。ここに、主役の蛇を持ち込む、現地のヘビハンター・サンディアゴ(セルトン・メロ)という癖しかないキャラクターと、ミステリアスなエキゾチック美女・アナ(ダニエラ・メルシオール)が加わり、アマゾン撮影が始まる。登場人物の誰しもが、撮影している間は、人生を思いっきり楽しんでいる。どこか抜けていて愛おしい。そして彼らの個性がストーリーに絡み合い、結末に向けてスピード感を増していく展開は、時間を忘れるほど面白い。
本作の共同脚本・監督を務めたトム・ゴーミカンは、スタジオが当初予定していた”よりストレートなリメイク”を大きく方向転換。本作をいい意味で馬鹿馬鹿しい、リブート版のパニック・アクション・コメディに仕上げた。彼が手がけた、ニコラス・ケイジが落ちぶれてしまったハリウッドスターである架空の自分を演じた『マッシブ・タレント』(2022)同様、笑いとアクションと驚きが何層にも重なっている。彼が何より大切にしたのは、コメディの感覚を失わないことだった。”恐怖”と向き合いながらも楽しさを保つ。このバランスが難しい。過酷な環境で、バカな行動をするのに、ちゃんと緊張感があって恐怖をリアルに感じる。笑った後に一歩引くと感服させられるのが、本作が多面的である理由のひとつだろう。
B級映画という青春の思い出
元ネタとなる”叫び声さえのみこまれる”というキャッチコピーの1997年版『アナコンダ』は、主演にジェニファー・ロペス、共演にアイス・キューブ、ジョン・ヴォイト、エリック・ストルツ、オーウェン・ウィルソンと豪華俳優陣を迎えながら、絶妙に漂うB級感が多くの映画ファンにハマり、世界で大ヒットを記録したカルト的人気を誇る作品だ。
ドキュメンタリー番組制作のためアマゾンに訪れた撮影隊がジャングルで巨大かつ獰猛な大蛇アナコンダに襲われる惨劇をスリリングに描いたパニック・スリラーである同作。映画作家役ジェニファー・ロペスの健康美、アマゾンで出会ったヘビハンター役のジョン・ヴォイトの怪演、聡明だが何も役にも立たなかった文化人類学者役エリック・ストルツ、すべてのアナコンダ強襲シーンで仲間を助け出す、カメラマン役のアイス・キューブの無双っぷり。大真面目のなかに漂う低予算感が観るものを魅了した。そして『アナコンダ2』(2002)、『アナコンダ3』(2008)、『アナコンダ4』(2009)、『ピラナコンダ』(2021)、『アナコンダVS.殺人クロコダイル』(2021)、『シン・アナコンダ -捕食領域- 』(2021)、『シン・アナコンダ』(2021)と続編が制作され、シリーズ化されていくことになる。
オリジナルの1997年版を見ていなかったとしても、”なんかB級感があって楽しそうだ”と思わないだろうか? それは本シリーズを民放TVの再放送で似たような作品を鑑賞した記憶があるからではないか。平日昼間の関東ローカル放送ながら、攻めたラインナップで全国区の知名度を誇る『午後のロードショー』(テレビ東京系)。2026年4月1日で30周年を迎えた『午後ロー』では、アクション映画、サスペンス・スリラー映画、アニマル・パニック映画が多く放送され、アニマル・パニック映画の中でも、アナコンダはサメ、ワニに続く定番タイトルだ。
おそらく本作は、TV放送で映画を観ていた世代にマッチするはずだ。誤解を恐れずに言うと、『午後ロー』が放送される平日昼間、または『サタ☆シネ』(テレビ東京系)が放送される土曜深夜に、映画をダラダラ観ることができるなんて、怠惰な生活を送っていたのだろう。モラトリアムだった学生時代、人生にくすぶっていたあの頃、そんな時期だったのではないだろうか。その焦燥感は奇しくも本作の登場人物たちの現在に重なってくるから、笑った後に感情を揺さぶられるのだ。
アメリカ本国の評論家のなかには、「本作のチープさはオリジナル作品をバカにしている」とみる向きもあるらしいが、こと日本において、そんなことはないと信じている。1997年版と同様に、本作の原題は『Anaconda』である。ここにリスペクトを感じつつも、邦題を『俺たちのアナコンダ』ととし、観客の気持ちをそのまま言葉にしたのは、作品内容を深く理解しているし、本当にグッジョブとしか言いようがない。
それに本作は”ストレートなリメイクではない”が、登場人物のキャラクターの要素、所作、行動、ストーリー展開は、オリジナルと同じ構造をしている。細かい部分、こじつけレベルかもしれないが、オリジナル版のオマージュがふんだんにスクリーン上に散りばめられている。なんせ、あの絶妙なタイミングでアイス・キューブが本人役で登場するのだから。
