
ゲームやマジックのお供として、今日でも親しまれている「サイコロ」。
このほど、北米の先住民社会で使われていた古い遺物から、1万2000年以上前にさかのぼる「世界最古級のサイコロ」が見つかった可能性が、米コロラド州立大学(CSU)によって発表されました。
研究の詳細は2026年4月2日に学術誌『American Antiquity』に掲載されています。
目次
- 世界最古のサイコロは「二面体」
- サイコロは「ギャンブル」ではなく「社会の潤滑油」だった?
世界最古のサイコロは「二面体」
今回の研究で注目されたのは、新しく掘り出された宝物ではありません。
むしろ、すでに各地の遺跡から出土し、報告もされていた骨や木製の小さな道具たちです。
研究チームは、北米先住民のサイコロと見られる遺物を調べ、共通する特徴を整理しました。
その基準は、二面を持つこと、両面がはっきり区別できること、表面が平らまたは少し湾曲していること、そして複数を手に持って投げられる大きさであることです。
これらは現代の六面体のサイコロとはかなり違いますが、偶然の結果を生み出すという点では同じ役割を持っていたと考えられます。
コイン投げに近い仕組みの、いわば「二択を生む道具」だったわけです。
この基準をもとに、チームは考古学記録の中に眠っていた候補を洗い直しました。
その結果、4つの条件をすべて満たす「診断的」なサイコロが565点、一部の条件を満たす「可能性の高い」サイコロが94点見つかりました。
【遺跡で発見された最古のサイコロ群の画像がこちら】
これらは北米西部の57遺跡から確認され、時代も地域もかなり広く分布していました。
つまり、これは一つの遺跡で偶然見つかった珍品ではなく、長い期間にわたって繰り返し使われた文化だった可能性が高いのです。
とくに重要なのは、その年代です。
もっとも古い確実な例は、フォルサム文化の遺跡に由来し、およそ1万2200年前から1万2800年前にさかのぼります。
さらに、クローヴィス文化に関連する「可能性の高い」例の中には、約1万3000年前に届くかもしれないものもあります。
もしこれらが本当にサイコロなら、アジアや中東で知られていた約5500年前の古いサイコロより、6000年以上も古いことになります。
サイコロは「ギャンブル」ではなく「社会の潤滑油」だった?
興味深いのは、これら世界最古のサイコロが単なる遊び道具ではなかったと見られる点です。
研究によれば、こうした運のゲームは、人々の交流を促すための「社会的技術」として機能していた可能性が指摘されています。
特に移動の多い狩猟採集社会では、異なる集団同士が出会う機会は限られていました。
そのような場面でサイコロは、見知らぬ相手との関係を築く「きっかけ」として使われていたと考えられます。
実際、賭けられていたのは金銭ではなく、動物の皮や石材といった交換可能な資源でした。
勝敗は長期的に見れば50対50に近づくため、富を一方的に集中させるのではなく、むしろ分配する仕組みとして働いていた可能性があります。
つまりサイコロは、現代のような「一攫千金の道具」ではなく、社会のバランスを保つための装置だったのです。
今回の研究は、サイコロを単なるゲームやギャンブルのための遊具ではなく、人類の知的活動や社会構造の一部として捉え直すきっかけを与えています。
もし1万2000年前の人々がすでに「偶然」や「確率」を扱う道具を使っていたのだとすれば、私たちが思う以上に早い段階で、人類は世界の不確実さを理解し始めていたのかもしれません。
そしてその出発点は、カジノではなく、見知らぬ誰かと向き合う静かな交流の場だったのです。
参考文献
Scientists May Have Uncovered The World’s Oldest Dice
https://www.sciencealert.com/scientists-may-have-uncovered-the-worlds-oldest-dice
Native Americans invented dice and games of chance more than 12,000 years ago, archaeological study reveals
https://www.livescience.com/archaeology/americas/native-americans-invented-dice-and-games-of-chance-more-than-12-000-years-ago-archaeological-study-reveals
元論文
Probability in the Pleistocene: Origins and Antiquity of Native American Dice, Games of Chance, and Gambling
https://doi.org/10.1017/aaq.2025.10158
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

