
多くのフォロワーを生みだすなど、のちの映画界に多大な“連鎖反応”をもたらした『悪魔のいけにえ』といえば、驚くような撮影秘話の数々でも有名。スティーヴン・キングも「私がこれまでに観たなかで、最も恐ろしい映画」と評する、桁違いの恐怖の一因となっている“本物”なエピソードをここでは紹介したい。
■本物の殺人鬼エド・ゲインがモデル…?

墓荒らしや殺人事件が多発するテキサスを舞台に、先祖の墓が荒らされていないか確かめるため帰郷した兄妹をはじめとする若者たちが、近隣に暮らす殺人一家のソーヤー家に襲われてしまい…と、物語は極めてシンプル。
車で拾ってくれた若者たちにナイフで切りかかるなど支離滅裂な言動を繰り返す三男ヒッチハイカー(エドウィン・ニール)、不気味な薄ら笑いを浮かべる脂ぎった長男コック(ジム・シードウ)、ミイラのような老人じいさま(ジョン・ドゥガン)ら、個性豊かなソーヤー家。そのなかでも抜群の存在感を放つのが、人の皮で作られたマスクをした巨体でチェーンソーを振り回す四男のレザーフェイス(ガンナー・ハンセン)だ。

ホラーアイコンとして名高いレザーフェイスだが、その間接的なモデルと言われているのが、実在したシリアルキラー、エド・ゲイン。殺した人物や墓から掘り起こした遺体の皮や骨を使ってオブジェやマスクを作った殺人鬼で、レザーフェイスのキャラクター像や墓荒らしという設定など『悪魔のいけにえ』との共通点も多い。

ドラマ「モンスター: エド・ゲインの物語」でも描かれたように、フーパー監督は子どもの頃に叔父から人の皮でランプを作っていた男の話を繰り返し聞かされ、印象に残っていたというが、エド・ゲインという名前については、映画制作当時は知らなかったそう。なお10代の頃には、主治医から遺体の皮を剥いで乾燥させたものをハロウィンパーティーに着ていったという医学生時代のやんちゃ話を聞いており、両方から影響を受けていると考えるのが自然だろう。
そうして生まれたレザーフェイスの恐怖を高めるため、撮影中は演じたハンセンと襲われる若者を演じたキャストたちとは一定の距離を取らせた(自然に距離を取っていたとも)という秘話も。結果として、役者たちの顔からはリアルな恐怖や憎悪といった感情が感じ取れる。
■本物の動物の死体をソーヤー家のインテリアに!
作品に説得力を与える撮影の“本物”エピソードはこれだけではない。ソーヤー家といえば、室内は人間や動物の骨、死体でできており、動物の骨などグロテスクな調度品の数々が並び、思わず死臭が漂ってきそうだが、これらの美術には本物の死体を使用している。

当初はぬいぐるみを予定していたが、理想的なものが見つからず、どうにかするように頼まれた美術監督のボブ・バーンズが市の動物保護施設から安楽死となった死体を集めた。もしくは動物病院で働いていたことのあるメイク担当のドッティ・パールのツテから用意されたなど、その入手経路については諸説あるが、どちらにしろ本物の死体にはフーパー監督も驚いたそうだ。
40度近い灼熱の撮影現場でこれらはひどい悪臭を放っていたようだが、そんな状況での撮影に加え、演者たちはなんとお風呂に入らないよう頼まれていたそう。スクリーン越しでも悪臭が伝わってくるようなおぞましい映像はこうして生まれたのだ。
■役者たちを襲った本物のケガの数々

過酷な環境下でのエピソードはこれだけにとどまらない。カーク役のウィリアム・ヴェイルがハンマーで殴られるシーンでは、ゴム製のハンマーにすり替えられたものの、レザーフェイス役のハンセンの振り下ろす勢いが強すぎたため目を腫らしてしまうというアクシデントが起き、演者たちは災難続き。
なかでも大変な思いをしたのが、主人公のサリーを演じたマリリン・バーンズだ。コックに箒で叩かれるシーンでは、用意した偽物のなかになぜか固い棒が入っていたり、ナイフで指を切りつけられるシーンでは、ナイフの先から血糊が出るという特殊効果がうまく働かず、急遽指を切ることになったりと体を張りまくっている。

全力疾走でレザーフェイスから逃げるシーンでも実際に枝や雑草に腕や足を絡め取られるなど、傷、血、さらにはパニック状態と思えるラストシーンのリアクションまで、なにからなにまですべてが本物なのだ。
まだまだ映画撮影のノウハウもなく、うまく現場をコントロールできなかったと、のちに自身でも撮影の不手際を振り返っているトビー・フーパー監督だが、そんな様々なアクシデントやイレギュラーが積み重なったことにより誕生してしまった恐怖は、多くの表現者に影響を与えてきた。

『チェイン・リアクションズ』では、スティーヴン・キングや日本の三池崇史監督、コメディアンのパットン・オズワルトや『ガールファイト』(00)、『ストレイ・ドッグ』(18)などのカリン・クサマ監督といった人々の口から作品の魅力が語られている。ぜひあわせてチェックし、改めて『悪魔のいけにえ』の恐ろしさを味わってほしい。

文/武藤龍太郎
