「ヒトラーも色あせるほどの集団大虐殺と、人道に反する蛮行が公然と行われ、世界を驚愕させています」
9月29日、国連総会一般討論演説で、イスラエルによるガザ侵攻を「ヒトラー」を引き合いに出し、強い口調でこう非難したのは、北朝鮮の金先敬外務次官である。北朝鮮がアメリカを批判する際、しばしば「ヒトラー」「ナチス」という言葉が使われるが、かつて金正恩総書記が政権中枢の幹部らに指導者マニュアルとして、ヒトラーの著書「わが闘争」を配り、士気を高めたことは有名な話だ。
ヒトラーはナチスドイツの独裁者だが、そんなヒトラーが「これを持てば世界を征服できる」との伝説を信じ、躍起になって探したといわれるものがある。十字架にはりつけにされたイエス・キリストの脇腹を刺し、生死を確認したとされる「ロンギヌスの槍」だ。
伝えられる話によると、キリストを刺した盲目の兵士が、キリストから流れ出た血に触れたことで目が見えるように。以降、この槍は聖遺物として、キリスト教徒により信仰の対象とされてきたという。
槍は全部で4本あり、最も強い「聖なる力」を宿していたのが、ヨーロッパの歴史上最も著名な王朝のひとつである、ハプスブルク家が所持する聖槍だった。槍の効能は噂にたがわず、8世紀には所持していたフランス国カール大帝が戦で連勝を重ね、ヨーロッパの覇者となった。
また12世紀には神聖ローマ皇帝のフリードリッヒ1世も、この槍を手中に収めるや否や領土を拡大し、英雄として称えられることになる。そして1806年、槍がハプスブルク家にわたると、たちまち一族はヨーロッパで一大勢力を持つことになったのである。
それを知って、この槍が欲しくてたまらなかったのが、独裁者ヒトラーだった。1938年にオーストリアを併合し、ハプスブルク家の財宝を押収したヒトラーは、ついに探し求めていた聖槍を手中に収め、ニュルンベルクの教会に安置した。
すると、ヒトラー率いるドイツ軍は西ヨーロッパで大躍進を遂げ、ついにソ連に迫る勢いに。だが、実はこの槍にはもうひとつ、不思議な力があった。
所持する者には強い力を与えるが、いったん手放したら最後、その先に待っているのは破滅と死なのである。その証拠にカーツ大帝は、槍を落とした直後に命も落とし、フリードリヒ1世も、槍をなくした直後に死亡している。それはヒトラーも同様だった。
1945年に連合軍が敗退すると、アメリカ軍がロンギヌスの槍を奪還。その直後にヒトラーは地下壕で、自ら命を絶った。
戦後、ロンギヌスの槍はウィーンに戻され、現地の王宮博物館に展示されているが、キリスト教徒の間では今もなお、この伝説が語り継がれているのである。
(ジョン・ドゥ)

