【スージー鈴木の週刊歌謡実話第29回】
倉田まり子『グラジュエイション』
作詞:山上路夫
作曲:都倉俊一
編曲:川口真
1979年1月21日発売
早見優と並べたポテンシャル
3月は卒業シーズン。「卒業歌謡」――どんな曲を思い浮かべますか?
「1985年春の卒業戦争」を私は思い出します。私がちょうど高校を卒業する春、突然『卒業』というタイトルの曲が、いくつもリリースされたのでした。
1月に尾崎豊、2月に斉藤由貴と菊池桃子と倉沢淳美。自分の卒業を祝ってくれているようで、ちょっとうれしかったものです。
ですが、今回は裏をかいて、私が小学校を卒業する’79年の春に向けられた、ややマニアックな曲を紹介します。
倉田まり子を憶えていますか?
日本テレビ系『スター誕生!』出身と思われがちですが、実はNHK『レッツゴーヤング』のサンデーズ出身。作曲家・都倉俊一の門下生のような感じでデビュー。何でも、芸名の名字「倉」は「都倉」から来ているらしい。
そんな彼女のデビュー曲が『グラジュエイション』。私はこの曲でこの英単語の意味=「卒業」を知りましたよ。
いかにも都倉俊一ぽい、ハイカラで精巧なメロディー。都倉といえば、まずは山本リンダやピンク・レディーとなりますが、こちらは「第二都倉」といいますか、ペトロ&カプリシャス『五番街のマリーへ』(’73年)や麻生よう子『逃避行』(’74年)の系譜にある作風です。
さて。ちょっとデビューが早過ぎたように思うのです。倉田まり子は。
スタイルもいいし(その名も『グッド・プロポーション』というアルバムもありました)、都会的で洗練されているし、歌もうまい。もう数年遅れてデビューすれば、早見優あたりのいいライバル関係になったと思うのですよ。
【スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ
投資ジャーナル事件が奪ったキャリア
あと、倉田まり子といえば「投資ジャーナル」「中江滋樹」という文字列を思い出す人が多いことでしょう。
’85年、「投資ジャーナル事件」という詐欺事件で逮捕された中江滋樹とのスキャンダルが報じられた結果、倉田まり子は芸能界引退に追い込まれたのでした。
ただ、のちの中江のインタビューによれば「4、5回食事をしただけの関係」で「会長、軽く倉田さんの肩に手をかけてください」と言われて撮られた写真が、写真誌に売り飛ばされただけとのことなのですが――。
しかし、現在の倉田、改め「坪田まり子」のサイトを見ると驚きます。何と「プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー」として大成、東京学芸大学特命教授まで務めているらしい。
そう考えると、芸能界からグラジュエイションしたことも、その後の第二人生=「第二倉田」には、良かったのかもしれません。
最後に余談。都倉俊一は2021年から文化庁長官を務めていましたが、この3月末での退任=グラジュエイションが決定。
文化庁といえば最近、国立の博物館・美術館に収入目標を設定することを発表して、批判を浴びたばかり。果たしてどんな舞台裏があったのか、都倉俊一の口から話してほしい、いや歌ってほしいと思うのです。
「週刊実話」4月16日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
