
「子連れ狼」「博打打ち」シリーズなどで知られる若山富三郎は、勝新太郎を弟に持つことで知られる昭和の名優だ。62歳で急逝するまであまたのキャラクターを演じた若山だが、中でも不思議なインパクトを残すのが、映画「シルクハットの大親分」(1970)の主人公・熊虎親分こと熊坂虎吉だ。任侠の大親分といえば殺気と貫禄をまとったコワモテの人物を想像するが、熊虎親分はそんなテンプレートと真逆のファニーなルックスの持ち主。その珍妙なルックスと魅力的な人物像に、引き込まれずにはいられない。
BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料放送)では「若山富三郎 特集」内で、4月1日に映画「シルクハットの大親分」(1970)を放送。4月8日(水)よりその続編「シルクハットの大親分 ちょび髭の熊」(1970)を放送する。この機に、熊虎親分と「シルクハットの大親分」シリーズの魅力を掘り下げていきたい。
■まずは「シルクハットの大親分」の復習から
「シルクハットの大親分」シリーズは、藤純子演じる緋牡丹のお竜を主役に据えた任侠映画「緋牡丹博徒」シリーズのスピンオフ作品だ。主人公は四国の熊虎一家を率いる熊虎親分。シリーズ1作目では、軍の仕事を引き受け九州・熊本へ渡った熊虎一家が、陸軍幹部を抱き込み不当な利益を貪る鎮台一家と対立。血と硝煙にまみれた戦いへと発展していくさまを描いている。
熊虎親分は陸軍省防衛部長の松村良徳から遼東半島の新要塞構築への協力を依頼されるが、利権を独占したい鎮台一家は、熊虎一家に手段を選ばぬ妨害工作を開始。熊虎一家は幾度も窮地に立たされるが、任侠仲間の助けと一家の結束によって乗り越えていく。鎮台一家はそんな熊虎一家に業を煮やし、熊虎をおびき出すべく罠を仕掛けるのだった。
任侠一家同士の対立と戦いという一見シリアスな題材ながら、熊虎一家の大家族のような仲の良さと、随所に散りばめられたコミカルなシーンが、任侠ものらしからぬ“ほっこり感”を与えてくれる。とりわけ、熊虎一家が遊郭に繰り出すくだりは見もの。一番若い遊女を巡って、熊虎と子分たちが本気で争うシーンは爆笑必至だ。

■熊虎親分は任侠ものらしからぬ“ほっこり感”
シリアスとコミカルの絶妙なバランスが光る本作で、抜群に存在感を放っているのが熊虎の魅力溢れるキャラクターだ。小太りの体にそばかすだらけの赤ら顔、正装はシルクハットにタキシードという、およそ任侠の親分に似つかわしくないルックス。涙もろくてお人よしだが、曲がったことを許さない熱血漢で義理人情に厚い男でもある。子分はもちろん任侠仲間にも慕われる熊虎は、ある意味、男の理想像だ。
熊虎を敵視する鎮台一家の親分・谷垣伝次とのコントラストも面白い。コワモテのルックスにサングラスをかけた谷垣は、いかにも悪党という佇まいで、あくどいやり口も話し方も実に憎たらしい。この“分かりやすい悪役”がいることで、熊虎の親しみを感じさせるキャラクターがいっそう引き立っているのだ。
女性に優しいところも熊虎の魅力の一つ。遊郭では陸軍幹部に迫られる遊女を助け、町ではしかに苦しむ少女がいれば、陸軍の乗る馬車を強引に奪ってでも助けようとする。こんな男が身近にいたら、多くの女性がルックス度外視で惚れてしまうかもしれない。
見た目は小太りの“おじさん”ながら腕っぷしも存外強く、鎮台一家が送り込んだ刺客と対峙する際には、ステッキ一本で何人もの男たちを倒してみせる。妹分の緋牡丹お竜と共闘し、銃と刀の二刀流で鮮やかに敵をなぎ倒していくクライマックスは、本作屈指の名シーンだ。

■「シルクハットの大親分」続編「ちょび髭の熊」も必見の面白さ
「シルクハットの大親分」の続編となる「シルクハットの大親分 ちょび髭の熊」は熱海が舞台。アメリカから初上陸する自動車を巡る利権争いに関わった熊虎が、この地を縄張りとする横川組を相手に前作以上の大暴れを見せる。自動車の大暴走やダイナマイトで吹き飛ぶド派手なシーンなどもあり、続編を推す映画ファンも少なくない。
昭和の任侠映画と聞くと「古臭そう」と感じる人も多いだろうが、「シルクハットの大親分」シリーズはそんな偏見を吹き飛ばしてくれる、今観ても十二分に楽しめる痛快なエンターテイメント作品だと声を大にして言いたい。熊虎を演じる若山富三郎は、役者として「お客様を楽しませる」ことを信条にしていたというが、本シリーズと熊虎の人物像からは、その思いがひしひしと感じられる。
BS12 トゥエルビでは「若山富三郎 特集」と題して、4月1日より火・水曜夜7時から若山主演の5作品を放送中。「シルクハットの大親分」シリーズ2作品に続き、4月21日(火)に鶴田浩二と共演する「博打打ち 総長賭博」、4月22日(水)に「極道」、4月29日(水)に「ごろつき部隊」が放送される。
◆文=帆刈理恵(スタジオエクレア)

