
中央アフリカ・コンゴ川流域で、まるでロッククライマーのように滝の岩壁を登る魚がついに撮影されました。
この奇妙な行動は50年以上前から語り継がれてきましたが、これまで決定的な証拠はありませんでした。
しかし今回、コンゴ民主共和国のルブンバシ大学(Université de Lubumbashi)の研究チームが、この魚の登攀(とうはん)を写真と動画で記録することに成功しました。
問題の魚は「シェリアー魚(Parakneria thysi)」と呼ばれる小型魚。
彼らはなんと、高さ約15メートルの滝を約10時間かけて登り切るのです。
では、実際の映像を見てみましょう。
研究の詳細は2026年4月2日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 「ほぼ1日がかり」なのに動いているのは15分だけ
- なぜそんな無茶を?「帰還」か「生存戦略」か
「ほぼ1日がかり」なのに動いているのは15分だけ
研究チームは2018年から2020年にかけて、コンゴ南部のルヴィロンボ滝で観察を行いました。
その結果、数千匹ものシェリアー魚が群れをなし、水しぶきがかかる岩壁に張り付きながら、上流へと移動している様子が確認されました。
実際の映像の一部がこちらです。音量に注意してご視聴ください。
しかしこの登攀(とうはん)、いわゆる「根性論」で登っているわけではありません。
むしろ、極端なまでに“休みながら登る”戦略を取っています。
1匹の魚が滝を登り切るまでにかかる時間は、平均で約9時間45分です。
ところが、そのうち実際に体を動かしている時間は、わずか約15分程度しかありません。
残りの時間は、ほとんどが休憩です。
短い停止を何度も繰り返しながら、さらに途中の岩棚では1時間近くじっと動かず休むこともあります。
まるで登山者が山小屋で休みながら山頂を目指すような、極めて効率的なエネルギー管理です。
このときシェリアー魚は、胸びれや腹びれの裏側にあるフック状の構造を使って岩に張り付き、体を左右に振ることで少しずつ前進します。
しかも彼らは、激しく流れ落ちる水に逆らいながら登っているのです。
当然、失敗も少なくありません。
水流に弾かれて落下し、再び最初から登り直す個体も多く観察されています。
特に崖の張り出し部分では、逆さまの状態で進む必要があり、ここでの落下が頻発していました。
さらに興味深いことに、この挑戦に参加できるのは小型の個体だけです。
体長が約48ミリを超えると、体重の増加によって自重を支えきれなくなり、登る能力を失うと考えられています。
なぜそんな無茶を?「帰還」か「生存戦略」か
ではなぜ、ここまでして滝を登るのでしょうか。
研究チームは2つの有力な仮説を提示しています。
1つは「帰還説」です。
雨季の激しい増水によって、シェリアー魚が下流へ流されてしまい、本来の生息地である上流へ戻ろうとしている可能性です。
実際、他の魚でも似たような上流回帰行動が知られています。
もう1つは「より良い環境への移動」です。
滝の上流は、餌の競争が少なく、捕食者も少ないと考えられています。
一方で下流は、捕食者が多く、餌資源も限られている環境です。
つまりこの登攀は、単なる無謀な挑戦ではなく、「生き残るための合理的な戦略」である可能性が高いのです。
【滝の壁を登るシェリアー魚たちの画像がこちら】
ただし、この壮大な挑戦には別のリスクも潜んでいます。
滝を登る前に魚が集まるポイントでは、違法な漁法によって簡単に捕獲されてしまうのです。
さらに、乾季には農業用水のために川の流れが分岐され、下流が干上がることもあります。
こうした人間活動によって、シェリアー魚の生息環境は大きく脅かされています。
「登る魚」が教えてくれるもの
今回の研究は、魚の行動に対する私たちの理解を大きく更新するものです。
水中で暮らすはずの魚が、10時間かけて滝の壁を登る。
それは一見すると奇妙で非効率な行動に見えます。
しかし実際には、環境に適応した高度な戦略の結果でした。
同時にこの研究は、こうした独特な生態が、環境の変化や人間活動によって簡単に失われてしまう危うさも示しています。
滝を登る魚の姿は、単なる「珍しい現象」ではありません。
それは自然が生み出した精巧なサバイバル戦略であり、そして今まさに失われかけている貴重な生態系の一部なのです。
参考文献
These tiny fish climb waterfall cliffs for 10 hours
https://www.popsci.com/environment/fish-climb-waterfall-cliffs/
Tiny African fish caught climbing to the top of a 50-foot waterfall
https://phys.org/news/2026-04-tiny-african-fish-caught-climbing.html
元論文
Fish climbing in the upper Congo Basin (Central Africa), first report for the shellear Parakneria thysi on the Luvilombo Falls
https://doi.org/10.1038/s41598-026-42534-8
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

