
朝の目覚めにコーヒーを飲み、昼の眠気を追い払うために一杯。さらに夕食後のリラックスタイムにもう一杯。
そんな習慣を持つ人は多いでしょう。
一方で、「コーヒーを飲みすぎると夜に眠れなくなる」という話もよく聞かれます。
では本当に、コーヒーのカフェインは睡眠を妨げる原因なのでしょうか。
この素朴な疑問に対し、英ブリストル大学(University of Bristol)の研究チームは調査を実施。
その結果、コーヒーのカフェインは「昼間の眠気は抑える」が、「夜の睡眠には直接的な因果関係がない」ことが示されたのです。
研究の詳細は2025年7月14日付で科学雑誌『Journal of Sleep Research』に掲載されています。
目次
- 「カフェイン」と「睡眠」はどれくらい関係するのか?
- 見えてきた意外な結果「眠れなくなる原因ではない」
「カフェイン」と「睡眠」はどれくらい関係するのか?
これまでの研究では、コーヒーを多く飲む人ほど睡眠の質が低く、不眠症になりやすいという関連が報告されてきました。
しかし、ここには大きな問題があります。
それは「本当にカフェインが原因なのか」が分からないことです。
例えば、仕事のストレスが強い人はコーヒーを多く飲みがちであり、同時に睡眠の質も低下しやすい傾向があります。
この場合、睡眠を悪くしているのはカフェインではなくストレスかもしれません。
また、そもそも眠れなかった人が翌日にコーヒーを多く飲むという「逆の因果関係」も考えられます。
さらに、人がどれだけコーヒーや紅茶を飲んでいるかは自己申告に頼ることが多く、正確なデータを得るのが難しいという問題もあります。
そこで研究チームは、「メンデルランダム化」という手法を用いました。
これは、人が生まれつき持っている遺伝子の違いを利用し、生活習慣の影響を受けない形で因果関係を調べる方法です。
具体的には、カフェインを多く摂取しやすい遺伝的傾向や、カフェインを体内でどれくらいの速さで分解するかに関わる遺伝子を特定し、それらと睡眠との関係を大規模データで分析しました。
対象となったのは、英国バイオバンク(UK Biobank)を中心とする数十万人規模のデータです。
その結果、見えてきたのは…
見えてきた意外な結果「眠れなくなる原因ではない」
分析の結果、まず明らかになったのは、カフェインの効果が主に「日中」に現れているという点です。
カフェインを多く摂取しやすい遺伝的傾向を持つ人ほど、日中の眠気が少なく、昼寝の頻度も低いことが確認されました。
つまり、コーヒーは確かに覚醒を促し、日中の活動を支える働きをしているのです。
一方で、注目すべきは夜間の睡眠への影響です。
遺伝的にカフェイン摂取量が多い人であっても、総睡眠時間が短くなる傾向は見られませんでした。
また、不眠症の発症とも因果関係は確認されませんでした。

さらに、カフェインの代謝が速い人ほど、昼寝をしにくく、朝のだるさも感じにくい傾向がありました。
これは一見すると不思議ですが、研究者は「カフェインが体内に長く残らないため、夜の睡眠に影響を与えにくい」と説明しています。
カフェインは脳内で「アデノシン」という眠気を引き起こす物質の働きを一時的にブロックします。
しかし代謝が速ければ、この作用は日中に限定され、夜には自然な眠気が戻ってくるというわけです。
また、カフェインは体内で「パラキサンチン」という物質に変換され、これも覚醒作用を持つことが知られています。
代謝が速い人ではこの物質が効率よく働き、日中のエネルギーを保ちながらも夜の睡眠には干渉しにくい可能性があります。
興味深いことに、コーヒーや紅茶を飲まない人を対象に同じ遺伝子を分析したところ、睡眠への影響は見られませんでした。
つまり、これは今回の結果がカフェイン摂取そのものに関係していることを裏付けています。
夜眠れないのはコーヒーのせいじゃない?
今回の研究は、「コーヒーを飲むと夜眠れなくなる」という広く信じられてきたイメージに再考を促すものです。
少なくとも遺伝的な因果関係の観点から見ると、カフェインは夜の睡眠を直接的に悪化させる原因とは言えませんでした。
むしろその主な役割は、日中の眠気を抑え、覚醒を維持することにあるようです。
もちろん、就寝直前のカフェイン摂取や個人差による影響は無視できません。
しかし、コーヒーそのものを「不眠の犯人」と決めつけるのは早計かもしれません。
私たちの睡眠を左右しているのは、実はカフェインよりも、ストレスや生活リズムといった別の要因なのかもしれないのです。
参考文献
Genetic study unravels the link between caffeine intake and sleep timing
https://www.psypost.org/coffee-habits-boost-daytime-alertness-without-inherently-ruining-nighttime-sleep-2026-03-26/
元論文
Exploring the Relationship Between Caffeine Consumption, Caffeine Metabolism, and Sleep Behaviours: A Mendelian Randomisation Study
https://doi.org/10.1111/jsr.70147
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

