経済格差の拡大がますます進む日本。この状況に政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、「NISA」を推進しているが、果たしてこの施策によって日本は本当に豊かになるのか。登録者数100万人を超える人気のYouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」を運営するすあし社長に解説してもらう。
※本稿は、すあし社長『この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 また、本書は2025年12月時点の日本経済、世界情勢に基づいた内容です。
資産を「持つ者」と「持たざる者」の差
株価は上がったけれど、私たちの生活は楽になったのかーー。
確かに、日経平均株価は2013年から24年にかけて4倍近くに跳ね上がり、東京のマンション価格は10年余りで2倍以上になりました。さらに政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、国民に投資を促しています。
しかし、働く人々の実質賃金は減り続け、貯蓄ゼロ世帯は単身者の3人に1人、家族世帯でも4世帯に1世帯に達しています。貯蓄すらない人々が3割もいるなかで、この政策は本当に国民全体を豊かにするのでしょうか。それとも、既に資産を持つ人々をさらに豊かにし、格差を固定化するだけなのでしょうか。
株価が上昇する一方で不動産価格も大きく変化しました。国土交通省が2025年2月に発表した不動産価格指数によると、24年11月時点のマンション(区分所有)価格指数は207.2(2010年=100)となり、わずか14年余りで2倍以上に跳ね上がりました。
特に東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超え、もはや一般のサラリーマンには手が届かない水準です。
株式を保有している人、不動産を所有している人は、この10年で資産が2倍、3倍、場合によってはそれ以上に膨らみました。一方で、そうした資産を持たない人々は物価上昇と実質賃金の低下により、生活がむしろ苦しくなりました。
現在の閉塞感の正体
この格差の実態を示すのが、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の調査です。
24年6月に実施された「家計の金融行動に関する世論調査」によると、金融資産を全く持たない貯蓄ゼロ世帯の割合は、単身世帯で32.8%、2人以上世帯で24.0%に達しています。つまり、単身者の3人に1人、家族世帯でも4世帯に1世帯は、「将来のための金融資産」を持てない、あるいは持たない状態です。
さらに深刻なのは、賃上げの実感がないという現実です。
25年、株式会社エデンレッドジャパンの調査では、87.6%の人が「手取りの増加を実感していない」と回答し、74.7%が「生活防衛のため支出を抑えている」、55.3%が「食費を削っている」と答えています。物価が上がり、生活が苦しくなるなかで、貯蓄どころか日々の食費すら切り詰めなければならない人々が増えているのです。
なぜ、このような格差が生まれたのでしょうか。
最大の理由は、異次元緩和による資産価格の上昇が、「既に資産を持っている人」だけを豊かにする仕組みだったからです。日銀が大量のお金を市場に供給すると、そのお金は株式市場や不動産市場に流れ込み、株価や不動産価格が上昇する。そのため、資産インフレの恩恵は、株式や不動産保有者に偏る傾向があったのです。
日々のキャッシュフロー(手取り賃金)が増えない限り、多くの国民が景気回復を実感できないのもまた真実です。「ストック(資産)」の豊かさが、「フロー(生活実感)」に結びついていない点が、現在の閉塞感の正体と言えるでしょう。
さらに、資産を持つ人と持たない人の間には、収入面でも大きな差があります。
大企業の正社員や高所得者層は、ボーナスや株式報酬などで企業の好業績の恩恵を受けやすい立場にあります。一方、中小企業の従業員や非正規雇用の労働者は、企業業績が改善しても賃金に反映されにくい構造があります。
こうして、「資産を持ち、高収入の人々」はますます豊かになり、「資産を持たず、低収入の人々」はますます苦しくなるという、格差の拡大が進んだのです。
この状況に政府が取り組んだ施策が、「NISA」だったのです。

