
猫の飼い主にとって、「飼い猫がごはんをあまり食べてくれない」「少し食べては途中でやめてしまう」という悩みは、けっこう“あるある”かもしれません。
この悩みに対し、岩手大学の研究チームは「嗅覚」という視点から新たな答えを示しました。
ネコが食事を途中でやめる背景には単なる満腹だけでなく、「同じ匂いへの慣れ」が関わっていることが示されたのです。
研究成果は2026年4月1日に科学誌『Physiology & Behavior』に掲載されました。
目次
- ネコはなぜごはんを残すのか?
- 猫は「匂いの変化」で食欲が動く
ネコはなぜごはんを残すのか?
イヌとネコはどちらも食肉目に属する動物ですが、食べ方には大きな違いがあります。
イヌは一度に多く食べる傾向があるのに対し、ネコは1日に何度も少量ずつ食べる「少量頻回摂食」を示します。
そして、「なぜネコは食事の途中でやめるのか」は分かっていませんでした。
一般には満腹感が原因だと考えられがちですが、ネコは空腹でも餌を食べ残すことがあり、単純なエネルギー制御だけでは説明しきれない面があります。
実際、今回の研究でも、16時間絶食した後に20グラムの餌を出しても、多くのネコは完食せず約3分の1ほどしか食べませんでした。
そこで研究チームが注目したのが「匂い」です。
ネコは食べ物を選んだり評価したりする際に嗅覚を強く使う動物です。
人間では、同じ食べ物の匂いに繰り返しさらされると魅力が下がる「感覚特異的飽和」が知られています。
研究チームは、ネコでも同じように、同じ匂いに慣れることが摂食行動に影響しているのではないかと考えました。
実験では12匹のネコを対象に、16時間絶食させた後、「10分間の給餌」と「10分間の休止」を1サイクルとして、これを6回繰り返しています。
この方法は、ネコの自然な1日の食事パターンをそのまま再現するためではなく、同じ餌を繰り返し提示したときに摂食量がどう変わるかを、短時間の中で確かめるためのものです。
その結果、同じ餌を繰り返し与えると、ネコの摂食量は回を追うごとに減少しました。
一方で、異なる種類の餌を順に与えると、この減少は大きく和らぎ、合計で食べる量も増えています。
さらに、5回同じ餌を与えた後に6回目だけ別の餌へ切り替えると、食べる量は再び増えました。
では、この結果は何を意味するのでしょうか。より詳しい点と共に、次項で見ていきます。
猫は「匂いの変化」で食欲が動く
この研究で特に面白いのは、「餌そのもの」を変えなくても、匂いだけで食べる量が変わった点です。
研究チームは、上下2層に分かれた特製の餌皿を使いました。
上段にはネコが実際に食べる同じ餌を入れ、下段には別の餌を置いて、匂いだけが上に届くようにしたのです。
この装置を使って、最初の5回は上段も下段も同じ餌にし、6回目だけ下段の餌を別のものに変えると、ネコは上段の餌を再び多く食べるようになりました。
つまり、味も栄養も同じままなのに、「新しい匂いが加わった」だけで摂食量が回復したのです。
これは、ネコの摂食行動が味や栄養の違いだけでなく、どんな匂いを感じているかによっても大きく左右されることを示しています。
さらに研究チームは、食事の合間に匂いだけを嗅がせる実験も行いました。
すると、給餌の合間に同じ餌の匂いを嗅がせ続けた場合、次に食べる量はより低くなりました。
逆に、合間に別の餌の匂いを提示すると、その低下は抑えられました。
これは、同じ匂いへの持続的な曝露が食欲を弱め、新しい匂いがその影響をやわらげることを示しています。
ここから見えてくるのは、ネコの食欲が「嗅覚順応」と「脱順応」によってかなり動的に調節されているという点です。
同じ匂いに慣れると食べる勢いが落ち、新しい匂いが入るとまた食べる気が戻る。
この仕組みは、ネコが少量ずつ何度も食べる行動の背景を理解するうえで、重要な手がかりになるでしょう。
もちろん、今回の研究ですべてが分かったわけではありません。
実験は12匹のネコで行われており、年齢や性別の大きな影響は見られなかったものの、より大きなサンプルでも確認する必要があるかもしれません。
また、この実験は短時間の摂食サイクルに注目したもので、ふだんの生活の中での長期的な食行動をそのまま再現したものではありません。
それでも研究は、「ネコがなぜごはんを残すのか」という身近な疑問に対して、かなり具体的な仕組みを示しました。
今後は、食欲が落ちたネコへの給餌法や、匂いを重視したペットフード設計への応用も期待されます。
新たな発見は、悩める猫の飼い主さんたちを救うものとなるかもしれません。
参考文献
ネコがごはんを残す理由を解明 ―同じ餌でも匂いを変えると再び食べる―
https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2026/04/007818.html
元論文
Olfactory habituation and dishabituation dynamically regulate feeding motivation in domestic cats
https://doi.org/10.1016/j.physbeh.2026.115328
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

