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昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明

昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明

昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明
昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明 / Credit: Capek et al., Current Biology (2026) / CC BY 4.0

冬の朝、外に出て数分で指先が動かなくなるあの感覚。

人間でさえそうなのに、昆虫にとっての寒さはもっと深刻です。

昆虫の多くは自分の体温を自力で作る仕組みを持たない「変温動物」で、気温が下がると体内の化学反応が次々と止まり、最後には動けなくなって死んでしまいます。

冬に虫を見かけなくなるのは、ほとんどの虫が寒くなる前に物陰にもぐり、春までじっと眠っているからです。

ところが、その常識をまったく無視している変わり者がいました。

スノーフライ(クモガタガガンボ、学名 Chionea)と呼ばれる、翅を持たない小さなハエの仲間です。

彼らはマイナス6度近い雪の上を、普通に歩き回ってパートナーを探したり卵を産んだりしています。

しかも不思議なことに、雪が解けて暖かくなると、むしろ物陰に隠れて姿を消してしまう。

寒いほうが好きという、昆虫としては完全に逆転した生き方をしているのです。

この小さな虫は、どうやって凍え死なずにいるのでしょうか。

アメリカのノースウェスタン大学(NU)とスウェーデン・ルンド大学(LU)の国際研究チームが、スノーフライの遺伝情報を初めてまるごと解読し、その秘密を徹底的に調べ上げました。

その結果、浮かび上がったのは、ひとつの魔法ではなく、三段構えの凍結防御システムでした。

研究成果は2026年4月6日に『Current Biology』にて発表されました。

目次

  • 体液の中に「不凍液」を持っている【1つ目の防御策】
  • 昆虫なのに哺乳類のように「自分で熱を作る」【2つ目の防御策】
  • 寒さの「痛み」を感じる感覚そのものが鈍い【3つ目の防御策】

体液の中に「不凍液」を持っている【1つ目の防御策】

スノーフライは寒さに強く南極などの極寒の地でも生息できる
スノーフライは寒さに強く南極などの極寒の地でも生息できる / Credit: Capek et al., Current Biology (2026) / CC BY 4.0

ひとつ目の武器は、体の中に内蔵された不凍液です。

寒い地方で車に乗る人ならご存じのように、冬のエンジン冷却水には不凍液を混ぜます。 水がそのまま凍ればエンジンが割れて壊れてしまうからです。

スノーフライは、それとそっくりなことを自分の体の中でやっていました。

彼らのゲノムを解読したチームは、体液の中に「不凍タンパク質」と呼ばれる特殊なタンパク質を作る遺伝子を発見しました。

このタンパク質の役目は、氷の粒にぺたりと貼りついて、氷が大きく育つのをブロックすることです。

ここで大切なのは、生き物が凍えて死ぬ本当の原因は「冷たさ」そのものではないということです。

本当の原因は、細胞の中で氷の結晶が育ち、その尖った刃先が細胞の膜をザクザクと切り裂いてしまうことにあります。

不凍タンパク質は、その針が伸びないように一本ずつ押さえつける、細胞の用心棒のような存在なのです。

面白いことに、このタンパク質は南極の魚が持っているものとよく似た構造をしていることが知られています。

魚と虫というまったく別々に進化してきた生き物が、同じ「凍結を防ぐ」という難問に対して、そっくりな答えにたどり着いているわけです。

研究チームはこの仕組みが本物かどうかを確かめるため、スノーフライの不凍タンパク質の遺伝子を普通のショウジョウバエの幼虫に組み込む実験を行いました。

結果、本来なら凍結で死んでしまうはずの条件でも、改造されたショウジョウバエの幼虫はしぶとく生き残ったのです。

遺伝子一つを持ち込むだけで、寒さに弱い虫が寒さに強くなる──それは、この不凍タンパク質が単なる飾りではなく、本当に命を守る実力を持っている証拠でした。

昆虫なのに哺乳類のように「自分で熱を作る」【2つ目の防御策】

スノーフライでは極寒の地で恒温動物のように発熱するのにミトコンドリアとペルオキシソームの遺伝子が強化されているようだ
スノーフライでは極寒の地で恒温動物のように発熱するのにミトコンドリアとペルオキシソームの遺伝子が強化されているようだ / Credit: Capek et al., Current Biology (2026) / CC BY 4.0

ここからがこの研究のいちばんの驚きです。

スノーフライは、昆虫のくせに、自分の体の中で熱を作っていたのです。

私たち人間や犬猫などの哺乳類は、食べ物のエネルギーの一部をわざと熱に変えて、体温を一定に保っています。

寒い日でも体が温度を保てるのは、細胞の中にある「ミトコンドリア」という小さな発電所が、せっせと熱を作り続けてくれているからです。

ミトコンドリアは私たち動物だけでなく、植物や昆虫の細胞にも入っている共通装備ですが、哺乳類ではエネルギーの一部をあえて熱として逃がし、体を温める仕組みが発達しています。

ハチやガが飛ぶ前に筋肉をブルブル震わせて体を温めることはありますが、これはあくまで一時的な運動で、哺乳類のような細胞レベルの発熱装置ではない、と長年考えられてきました。

しかし研究チームがスノーフライの胸部に極細の温度計を刺し込んで内部温度を測ったところ、外気温が下がり始めると、彼らの体内温度は対照のコオロギより最大で1度ほど高い状態を数分間キープできることがはっきり確認されたのです。

比較のために同じ実験台に乗せた同サイズのコオロギには、この現象は見られませんでした。

さらに決定的だったのは、あらかじめ殺しておいたスノーフライで同じ実験を行うと、この温度差はまったく現れなかったことです。

つまり「体の作りのせいで偶然熱が逃げにくい」のではなく、生きている間だけ働いている能動的な仕組みが熱を生み出しているのは確実というわけです。

しかも観察中、スノーフライはいっさいブルブル震えていませんでした。

運動で熱を作っているのではなかったのです。

そもそも彼らには翅がなく、震えの元となる飛翔筋すら退化しています。

そこで遺伝子を詳しく調べたところ、興味深い事実が浮かび上がりました。

スノーフライでは、ミトコンドリアに加えてペルオキシソームに関わる遺伝子ファミリーがそろって増えていたのです。

ペルオキシソームというのは、細胞の中に浮かんでいる小さな袋状の器官で、いわばミトコンドリアの相棒となる下処理工場のようなものです。

食べ物の中の脂肪は、そのままでは大きすぎてミトコンドリアでは燃やしにくいので、ペルオキシソームがまず長い脂肪を刻んで小さなパーツに加工し、それをミトコンドリアに渡して最終的にエネルギーや熱に変えてもらい、ついでに、燃焼の過程で出てくる有害な副産物を処理する解毒所の役割も兼ねている可能性があるわけです。

さらにスノーフライではこの下処理工場と発電所、両方の能力の両者を連携させる調整役のタンパク質まで増えていることが示唆されました。

これらが正しければ、脂肪をたくさん刻んで効率よく燃やし、その燃焼のエネルギーを意図的に熱として放出する──体の設計図のレベルで、まさに「熱を作る専門部署」を丸ごと拡張していたことになります。

つまり体の設計図のレベルで、熱を生みやすい仕組みが強化されていたのかもしれません。

配信元: ナゾロジー

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