「面白い!」を見つける物事の見え方が変わる発想法
林雄司・著
ちくまプリマー新書/990円
ここでいう「面白い」とは、日常で目にする風景や出来事の中にあるものを「エッ」と驚いたり「面白い!」と感じたりする心情を指している。
冒頭で具体例として示されるのは、各所の薬局の店頭にあるサトちゃんの置物だ。おなじみ佐藤製薬のマスコットキャラクターなのだが、ゾウでありながらピンクやオレンジ色であるだけでなく、顔にマスクをしているものや季節に応じた服装をしているものもある。日本人にとっては見慣れていても、外国人観光客たちからは「面白い!」とカメラを向けられ、ちょっとした騒ぎを巻き起こす。
著者は、こうした事物を紹介する「デイリーポータルZ」というサイトを20年以上運営し続け、好評を博しているというから、それを見ていただくのが早いだろう。本書には、納豆を1万回混ぜてみるとか、看板の文字が経年劣化で消えたのに特定の色の字だけが残って妙な表示になる事例が取り上げられている。
とはいえ、それらを羅列するために本書は作られたのではない。面白さを見つける行為そのものを読者に勧めるのが目的なのだ。だから、この行為により生まれるさまざまな効用が、まず語られる。「まず、どんなものを面白く思ったか。客観的な評価を受ける必要はない」と言う。早い話が、自分さえ面白ければいいのである。「自己満足?」それで構わないわけだ。何かにつけて他人との比較や競争、あるいは無理に人に合わせることに疲れてしまっている現代人にとって、たしかにこれは大きい。自分なりの楽しさを味わえれば、それだけで人生が豊かになれる、という著者の主張には、なかなかに頷けるものがあるではないか。
続いて「面白いを発見して楽しむためのヒント」。要は、表面だけでは見過ごしてしまうものを、もう一歩踏み込んで考えてみるところから始まるのだという。例えば、風の強い街で道路に張られた横断幕、何気なく目をやると切り裂いたような三角形の穴がある。「イタズラで切られたのかな」ですますのでなく少し思いを巡らすと、強風で飛んでしまわないように風の通り道を作っているのだとわかる。これだけの気づきでも十分面白い。
そのささやかな気づきから、さらに面白さを探す手法の数々も語られる。例えば、漫然と歩くのでなく、視線を上や下に向けると屋上や地面のものが見えるし、電車で居合わせた乗客を観察するのもいい。発見した面白い点のふくらませ方となると、さまざまなアイデアが、さながら宝庫のように示される。
何はともあれ、日々の生活に追われるだけでなく、タイパだのコスパだのの世知辛さを忘れて自分なりの面白さを見つけたくなる一冊である。
寺脇研(てらわき・けん)52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「文部科学省 『三流官庁』の知られざる素顔」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」など著書多数。

