
時折、男性と女性の間のトラブルとして、「この子の本当の父親は誰?」という疑問が持ち上がります。
こうした問題は、たいていDNA鑑定で決着がつきます。
しかし、イギリスで起きたあるケースでは、その“決定打”であるはずのDNA鑑定が役に立ちませんでした。
一卵性双生児の兄弟と関係を持った女性が出産した子どもについて、どちらが父親なのか、科学的にも法的にも特定できなかったのです。
目次
- DNA鑑定でも判別できない親
- 裁判所が出した結論は?
DNA鑑定でも判別できない親
問題の発端は、ある女性が一卵性双生児の兄弟と、わずか4日以内という短い期間にそれぞれ性交したことにあります。
その後、2018年に子どもが誕生しました。
通常であれば、ここでDNA鑑定を行えば父親はほぼ特定できます。
ところが今回のケースでは、子どものDNA鑑定結果は双子の兄弟のどちらにも同じように一致し、片方だけを父親から外すことができませんでした。
この不可解な状況を理解するには、まず一般的な親子鑑定の仕組みを知る必要があります。
通常のDNA鑑定では、STR(短い反復配列)と呼ばれるDNA上の目印を比べます。
この目印は人によって異なるため、親子関係の有無をかなり高い精度で判断できます。
見方を変えれば、親子鑑定はDNA全体を丸ごと比べるというより、「人を見分けるための目印」を見ているのです。
しかし一卵性双生児の場合、通常の親子鑑定が頼りにしているこの目印では2人を区別できません。
一卵性双生児は、もともと1つの受精卵が分かれて生まれた存在なので、基本的なDNA配列がきわめてよく似ているからです。
そのため、一般的な父子鑑定では「どちらも父親候補に見える」という困った状態が起きます。
このケースは、まさにそこにぶつかりました。
もっとも、科学的には「一卵性双生児は完全同一している」というわけではありません。
細胞分裂の途中でごく小さな突然変異が起きたり、成長のなかで遺伝子の働き方に違いが出たりするため、厳密にはわずかな差が生まれることがあります。
理論上は、全ゲノム解析のようなより高度な方法で、そのごく小さな違いを探せる可能性があります。
ですが、それは特殊で高額な検査であり、必ず答えが出るとも限りません。
つまり、この時点では、一般的なDNA鑑定は「決め手」にならなかったのです。
では、この問題はどのように決着したのでしょうか。
裁判所が出した結論は?
この問題は最終的にイギリスの裁判所に持ち込まれました。
もともと出生証明書には双子の一方が父親として記載されていましたが、もう一方の兄弟と母親が、その扱いを見直すよう求めて争うことになったのです。
ですが裁判所は、2人のうちどちらが父親である可能性も50%で、現時点の証拠では一方に絞れないと判断しました。
控訴審でもこの結論は変わりませんでした。
ここで重要なのは、裁判所が「出生証明書に名前がある男性は父ではない」と断定したわけでもない点です。
その人物が父親である可能性は依然として残っており、ただし父親だと証明することもできません。
逆に、もう一方の兄弟が父親だと証明することもできない。
法の側から見ると、父親は双子のどちらかであることまでは分かっているのに、そこから先へ進めないという、非常にややこしい状態になったのです。
結局、裁判所は、法的な父親を特定せず、「母親のみが明確な親権者である」と判断しました。
また両方の男性が生まれた児童の養育と福祉に責任を持つよう伝えています。
加えて、裁判官は、子どもが大人になる頃には技術が安くなり、いまは難しい検査が現実的になるかもしれないとも指摘しました。
私たちはふだん、「DNAがあれば個人ははっきり特定できる」と考えがちです。
しかしこのケースは、その常識にも例外があることを浮き彫りにしました。
いずれにせよ、母親と2人の男性による行為の一番の被害者は、彼らの子供でしょう。
参考文献
A Woman Had Sex with Identical Twins and Now She Can’t Determine Who the Father Is
https://www.zmescience.com/science/biology/identical-twins-paternity-dna-court-battle/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

