
子供に「お菓子を食べていいよ」と言うと、多くの子はうれしそうに手を伸ばすでしょう。
では、「嘘をついてもいい」と言うと、どうなるのでしょうか。
シンガポール国立大学(NUS)の研究チームはこの疑問を調べ、意外な結果を報告しました。
子供は嘘を許されると、かえって嘘をつかなくなる傾向を示したのです。
研究は2026年3月11日付の学術誌『Developmental Science』に掲載されています。
目次
- 子供の嘘は能力か、それとも道徳か?
- 許されたのに、なぜ嘘が減少したのか
子供の嘘は能力か、それとも道徳か?
嘘という行為は、単に口先でごまかすことではありません。
相手が何を知らないかを考え、そのうえで本当ではない情報を伝える必要があります。
つまり嘘には、相手の心の状態を推測する力が必要です。
けれど同時に、子供は幼いころから「嘘は悪いことだ」とも教えられます。
嘘には、能力だけでなく道徳も関わっているのです。
ここで発達心理学の研究には、ひとつ難しい点があります。
子供がある場面で嘘をつかなかったとしても、それが「まだうまく相手をだませないから」なのか、それとも「悪いことだからやらなかった」のか、行動だけでは見分けにくいのです。
そこで今回の実験では、主に3歳から6歳台の子供たちが参加しました。
子供はステッカーを2つのカップのどちらかに隠し、実験者がその場所を当てます。
このとき子供はヒントを出しますが、実験者は子供が指したカップを必ず開けます。
そのため、相手を騙して別のカップへ導くほうが有利になる仕組みです。
ただし研究者は、子供に「嘘をつきなさい」と直接指示したわけではありません。
そして一部の子供には、本番の前に「ふつうは間違った答えを言うのはよくないけれど、このゲームでは正しい答えでも間違った答えでもよく、勝つために好きに言ってよい」といった内容を伝えました。
研究者たちは、この説明によって道徳的なためらいが弱まり、子供はより多く嘘をつくようになると予想していました。
ところが結果は逆でした。
許可を与えられた子供のほうが、むしろ嘘をつく割合が低くなる傾向が見られたのです。
いったいなぜでしょうか。より詳しい結果を次項で見ていきます。
許されたのに、なぜ嘘が減少したのか
この研究では3つの実験が行われました。
最初の実験では、許可を与えられた子供のほうが、そうでない子供よりも嘘をつく頻度が低くなりました。
2つ目の実験では、事前に決めていた主要な分析でははっきりした差が出ませんでしたが、初期の行動の違いを考慮すると同じ方向の傾向が見られました。
そして3つ目の実験では、その点をあらかじめ考慮した設計で、再び同様の結果が確認されました。
ただし重要なのは、どちらのグループの子供も一定の割合で相手をだましていた点です。
つまり「嘘をつかなくなった」のではなく、「嘘をつく割合が相対的に低くなった」という結果です。
では、なぜこのような逆転が起きたのでしょうか。
ひとつの可能性として、子供はゲームの中であっても「嘘は悪いこと」という感覚を完全には切り離していないことが考えられます。
「ふつうはよくないが」という前置きによって、その意識がかえって強まり、嘘を控える方向に働いた可能性があります。
また、子供は大人の言葉の裏にある意図を読み取ろうとする傾向があります。
そのため「嘘をついてもよい」という説明をそのまま受け取るのではなく、「本当は正直に行動すべき場面なのでは」と考えた可能性も指摘されています。
この研究が示しているのは、子供の嘘が単なる能力の問題ではなく、道徳や状況の理解と深く結びついているという点です。
幼児であっても、嘘をついたり正直であったりするときに、その内側では能力や道徳が複雑に絡み合っているのです。
ただしこの研究は、特定の文化圏の子供を対象としており、また子供の内面を直接測定したものではありません。
今後は異なる文化や状況でも同様の結果が見られるのかを検証していく必要があります。
参考文献
Children are less likely to use deception after being given permission to deceive, study finds
https://www.psypost.org/children-are-less-likely-to-use-deception-after-being-given-permission-to-deceive-study-finds/
元論文
The Permission Paradox: Condoning Deception Can Promote Honesty in Young Children
https://doi.org/10.1111/desc.70168
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

