日本が準々決勝で敗退した第6回WBCの印象のひとつは、かつて侍ジャパンはイチローに象徴されるような、緻密な技と試合運びの巧さを身上とするスモールベースボールだったのに、近年は大谷翔平、鈴木誠也、村上宗隆、岡本和真、佐藤輝明など、スラッガー中心のチームになったということである。つまりたとえ2、3点負けていたとしても、すぐに3ラン、満塁弾などで試合をひっくり返す。
広島カープの4番打者として初めて大リーガーになった鈴木誠也(カブス)はこの大会で負傷し、今季のMLB開幕には出遅れた。それにしても2025年シーズンには32本塁打、103打点。特にポストシーズンを含めた5試合連続本塁打は、MLB史上初の快挙だった。
そこでカープファンとして興味深いのは、21世紀の鈴木誠也と20世紀の山本浩二(ミスター赤ヘル)は、どっちが凄かったのか、ということである。このファンタジックな「夢の対決」について、私は時代や国境を越えて社会学、スポーツ論の両面からこれらを分析し、単行本にして著した。
この際、記録だけで見ると、山本浩二は現役18年間の通算成績で2339安打、536本塁打、1475打点。通算打率は2割9分だった。一方の鈴木誠也はカープ9年+カブス4年(計13年間)で通算1473安打、269本塁打、858打点、通算打率2割9分6厘を記録しており(2026年開幕前の時点)、まだこれから先がある現役大リーガーである。
はたして鈴木誠也は、カープ史の中で誰にも抜かれないと思われていた山本浩二の領域に近づけるのだろうか。あるいは近い将来、そのインパクトで彼を追い抜くことはできるのだろうか。
「もうひとりの大谷翔平」になる可能性を秘めている
その答えは、さほど難しいものではなかった。歴史(時間)というものが後戻りできない以上、鈴木誠也がいくら彼の数字(成績)を上回ることができたとしても、ここ10年から20年で山本浩二や衣笠祥雄のレガシーを抜くことはできない。
しかし30年から50年を経た時には、全く分からない。人々が伝え続ける伝説が、時間経過とともに積み上げられていくからである。鈴木誠也はまだアメリカで「もうひとりの大谷翔平」になる可能性を秘めている。
ただ、たとえそうであったとしても現時点で、1970年代から80年代にかけて山本浩二と衣笠祥雄がヒロシマの街をひとつにまとめ、「赤ヘル旋風」を巻き起こし、日本中に「地方の時代」を実感させたことは永遠に人々の記憶から消え去ることはない。
拙書では他に「カープ最強の外国人打者は誰だったのか?」「一振りにかけた最強の代打男は誰だったのか?」など、カープのスラッガーたちの一振りが紡ぎ出した感動の物語がある。これをぜひ末永く、後世に遺しておきたい。

4月15日に刊行した「永久保存 カープ不滅のスラッガー伝説」(南々社刊=2枚目の写真)で、彼らの胸の鼓動や息づかいを感じてもらえるなら幸せである。
(迫勝則/作家)

