GDPの約10%の損失が発生する恐れも
台湾有事が起こったさい、経済的な衝撃も計り知れません。
米インド太平洋軍で情報司令官を務めたマイケル・スチュードマン退役少将は2024年10月、「中国が台湾を物理的に占領できると判断すれば、(日本は)10兆ドル(約1520兆円)の富が失われる」と述べています。これは世界44の国内総生産(GDP)の約10%に相当する規模です。
また、財務省も経済的影響について言及しています(広報誌『ファイナンス2025年1月号』)。全面的侵攻・戦争が発生した場合、台湾はGDPの40%減、中国は16.7%減、日本は11.5%減、アメリカは6.7%減という試算を紹介しています。台湾海峡封鎖の場合でも、台湾は12.2%減の損失が見込まれるとされています。
野村総合研究所は22年8月、台湾有事によって日本と台湾との貿易が途絶した場合の試算を公表しています。
日本から台湾向けの輸出が停止すれば、日本の名目GDPは直接効果だけで0.90%押し下げられます。さらに、台湾からの半導体輸入が停止し、高性能半導体を用いる8分野(自動車部品、ゲーム機、パソコン、携帯電話、家電、液晶パネル、医療用機器、ロボット)の生産が33%減少し、日本の名目GDPは0.48%押し下げられます。
これらを合計すると、GDP押し下げ効果は年間1.38%となり、さらに、10%の円高進行を加味すると、日本のGDPは1.84%減少すると試算されています。
これはリーマンショック級の衝撃に匹敵し、日本経済の構造そのものを破壊しかねない数値です。日本の潜在成長率が0%台前半から半ば程度であることを踏まえると、この打撃は日本経済を一気に景気後退に陥れるのに十分な規模です。
さらに、台湾有事が中国との貿易にも悪影響を与え、また、米中間で経済制裁の応酬がなされるような場合には、日本もその影響を大きく受ける可能性が高くなります。
貿易総額の約20%を占める中国との間の貿易が大きく縮小すれば、日本経済に破壊的な打撃を与えることになるでしょう。
ミサイルだけでなく「法の隙間」を突いた攻撃も
地理的な距離感もまた、日本が「他人事」でいられない決定的要因です。
日本の最西端である与那国島から台湾までの距離はわずか約110㎞にすぎません(東京から高崎までが約100㎞)。現代のミサイル戦や航空戦において、この距離は侵攻可能の範囲です。中国が台湾への着上陸侵攻や海上封鎖を行う場合、台湾周辺の海空域における優勢確保(航空優勢・海上優勢)が必須となります。
その作戦範囲は必然的に日本の排他的経済水域(EEZ)や領空と重なり、自衛隊の活動領域や米軍基地(嘉手納、佐世保など)が攻撃対象になる可能性も高いのです。
しかし、私たちが警戒すべきは、ミサイルが飛んでくるような「有事」だけではありません。より現実的で厄介なのが、平時と有事の境目が曖昧な「グレーゾーン事態」です。
例えば、武装した漁民(海上民兵)が「避難」を名目に尖閣諸島や与那国島に上陸したり、海底ケーブルが「事故」に見せかけて切断され、通信や金融インフラが麻痺したりする事態です。これらは国際法上の「武力攻撃」と即座に認定されにくいため、自衛隊は防衛出動ができず、警察権(海上保安庁・警察)のみでの対応を強いられます。
相手はこの「法の隙間」を突き、戦わずして日本の社会機能を麻痺させる「ハイブリッド戦」を仕掛けてくる可能性が高いのです。
戦域が日本の領土・領海を含み、さらに社会インフラまでもが標的になる以上、日本が中立を保つことは軍事地政学的にも、現代戦の性質上的にも、極めて困難です。法的な手続きを経るか否かに関わらず、日本は構造的・物理的に紛争の当事者として巻き込まれざるを得ない立場にあります。

