
季節によって精子の質が変わることはあるのか?
そんな素朴な疑問に、科学が一歩踏み込んだ答えを示しました。
カナダ・クイーンズ大学(Queen’s University at Kingston)らの国際研究チームは、デンマークとアメリカ・フロリダ州の精子ドナー1万5000人以上のデータを分析。
その結果、精子の質に明確な季節変動があることを報告しました。
それによると、精子の運動能力が最も高まるのは「夏」、逆に最も低くなるのは「冬」でした。
研究の詳細は2026年2月21日付で科学雑誌『Reproductive Biology and Endocrinology』に掲載されています。
目次
- 夏に高まり、冬に落ちる「精子の運動力」
- 原因は気温ではない?見えてきた“意外な要因”
夏に高まり、冬に落ちる「精子の運動力」
今回の研究では、精子の「量」ではなく、「どれだけ効率よく前に進めるか」という“運動性”に注目しました。
分析の結果、直線的に泳ぐ能力を持つ「前進運動精子」は、
・6月〜7月に最も多くなる
・12月〜1月に最も少なくなる
という明確な季節パターンを示しました。
興味深いのは、この傾向が寒冷なデンマークと温暖なフロリダの両方で一致していた点です。
気候も生活環境も異なる地域で同じ結果が得られたことから、この現象が偶然ではなく、人間の生理に共通するリズムである可能性が浮かび上がります。
一方で、精子の総数や精液量には季節変動は見られませんでした。
つまり、体内で作られる精子の「量」は年間を通してほぼ一定であり、変化していたのはあくまで「質」、特に運動能力だったのです。
これは、精子の生産そのものが季節で変わるのではなく、作られた精子のパフォーマンスが季節によって変動することを意味しています。
原因は気温ではない?見えてきた“意外な要因”
では、なぜ精子の運動性は季節によって変わるのでしょうか。
精子は体内で成熟するまでに約74日かかるため、チームは「気温」が影響している可能性も検討しました。
具体的には、精液採取時の気温だけでなく、約2カ月前の気温も含めて分析しています。
しかし結果は意外なものでした。
気温と精子の質の間には、ほとんど明確な関係が見つからなかったのです。
つまり、「暑いから精子が元気になる」「寒いと弱くなる」といった単純な説明では、この現象は説明できません。
そこで研究者たちは、別の可能性に注目します。
それが季節によって変化する生活習慣や環境要因です。
たとえば、
・日照時間の違い
・運動量や活動量の変化
・食生活の変化
・睡眠やストレスの状態
といった要因は、季節とともに自然に変わります。
研究ではこれらを直接測定していませんが、気温の影響を取り除いても季節パターンが残ったことから、こうした生活要因が精子の運動性に影響している可能性が示唆されました。
さらに、精子の質は年齢によっても変化し、25〜35歳頃に最も高くなる傾向も確認されています。
若年層と高年齢層ではやや低下するため、年齢と季節の両方が複雑に関係していると考えられます。
妊娠しやすくなるかどうかは不明
今回の研究は「精子の質は季節によって変わる」というシンプルでありながら重要な事実を、大規模データによって裏付けました。
ただしその変化は、精子の数ではなく「どれだけ力強く泳げるか」という性能の部分に限られています。
そして、その原因は気温ではなく、私たちの日々の生活や環境の変化にある可能性が高いのです。
また、このように精子の運動性が季節によって変化することは示されたものの、それが実際に妊娠のしやすさに影響するかどうかについては、現時点では明確な結論は出ていません。
その点は今後の研究課題となります。
参考文献
Sperm quality is at its peak in the summer, study finds
https://www.livescience.com/health/reproductive-health/sperm-quality-is-at-its-peak-in-the-summer-study-finds
元論文
Seasonal trends in sperm quality in Denmark and Florida
https://doi.org/10.1186/s12958-026-01537-w
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

