
1100万年前に絶滅したと思われてたい齧歯(げっし)類のネズミ。
しかし彼らは今もなお、ラオスのジャングルで生き残っていたのです。
この驚くべき発見の物語は、2005年に始まりました。
研究者らが、ラオスで発見した見慣れないネズミを新しい科・属・種に属する新種として記載。
「ラオスイワネズミ(Laonastes aenigmamus)」という学名も付けられました。
ところが後の調査で、そのネズミの正体は1100万年前に絶滅したはずの古代系統「ディアトミス科」の唯一の生存種であることが判明したのです。
目次
- 市場のネズミから「謎」が始まる
- ネズミでもリスでもない、不思議な生き方
市場のネズミから「謎」が始まる
1996年、生物学者のロバート・ティミンズ氏はラオス南部の市場で、食用として売られている奇妙な齧歯類を見つけました。
見慣れないネズミの姿にティミンズ氏は調査を継続することにします。
その後、頭骨や写真、さらにはフクロウのペリット(吐き出した未消化物)から見つかった骨片など、断片的な証拠が少しずつ集まっていきました。
そして2005年、ついにこの動物は未知の新種として正式に記載されます。
それが先ほど言った「ラオスイワネズミ(Laonastes aenigmamus)」です。
実際の生きた姿がこちら。視聴の際は音量にご注意ください。
当初の研究者たちは、この動物があまりにも独特であることから、「現生のどの齧歯類とも異なる新しい科に属する」と考えました。
つまりこの時点では、「変わった新種が見つかった」という認識にとどまっていたのです。
しかし、ここから状況は一変します。
別の研究チームが過去の化石標本を精査していたところ、この動物の頭骨が、漸新世から中新世にかけて存在した齧歯類の化石と驚くほど一致することが判明しました。
その結果、この動物は「新しい系統」ではなく、1100万年前に絶滅したとされていたディアトミス科の生き残りであることが明らかになったのです。
これは、化石記録から消えた生物が現代に再び現れる「ラザロ効果」の典型例でした。
ネズミでもリスでもない、不思議な生き方
ラオスイワネズミは見た目こそネズミに似ていますが、よく観察すると奇妙な特徴を持っています。
ふさふさとした尾はリスのようでありながら、動きは俊敏とは言えず、むしろアヒルのようによちよちと歩きます。
さらに意外なことに、この動物は木登りが得意ではありません。
多くの齧歯類が樹上生活に適応しているのに対し、ラオスイワネズミは石灰岩の岩場を好み、地面を這うように移動します。
この特殊な生態は、彼らが長い進化の過程で「競争の少ない環境」に適応してきたことを示唆しています。
カルスト地形の複雑な岩場は、外敵から身を守るのに適した場所であり、結果として古代的な特徴を保ったまま生き延びることができたと考えられています。

一方で、この動物は地元では決して未知の存在ではありませんでした。
ラオスの人々にとっては日常的に知られた動物であり、食用としても利用されていたのです。
つまり、科学者たちが「発見」するよりもずっと前から、この生き物は人々の生活の中に存在していました。
遠くの研究室で進化の謎に頭を悩ませていた間も、現地では当たり前のように知られていたのです。
ラオスイワネズミの発見は、単なる珍しい新種の発見ではありません。
それは「絶滅したはずの生物が今も生きているかもしれない」という現実を私たちに突きつけました。
そして同時に、科学が見落としてきた知識が、地域社会の中にはすでに存在していることも示しています。
もしかすると、私たちが「すでに絶滅した」と信じている生き物の中にも、まだどこかで静かに生き延びている存在がいるのかもしれません。
参考文献
Scientists Thought This Rodent Family Went Extinct 11 Million Years Ago – Then They Found Some In The Jungle
https://www.iflscience.com/scientists-thought-this-rodent-family-went-extinct-11-million-years-ago-then-they-found-some-in-the-jungle-83179
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

