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ベルリンが絶賛した感動作『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』キム・ヘヨン監督が語る、傷ついた心を溶かす処方箋

ベルリンが絶賛した感動作『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』キム・ヘヨン監督が語る、傷ついた心を溶かす処方箋

「大丈夫」と言いたいのに、言えない時がある。他者との競争に追われ、気づかないうちに心をすり減らしてしまう。『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』(公開中)は、そんな感情の奥にある孤独に寄りそう作品だ。ソウルの芸術団を舞台に、心に傷を抱える女子高生と完璧主義の先生が織りなす絆を描く本作。第74回ベルリン国際映画祭の「Generation Kplus」部門で、韓国映画として初めて最優秀作品賞(クリスタル・ベア賞)を受賞した。監督を務めたのは、ドラマ「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」などを共同演出したキム・ヘヨン。長編デビュー作となる本作に込めた思いや、キャストとの撮影秘話、そして物語の核となる“慰め”の意味について聞いた。

■「『つらい』と言えず笑ってみせるイニョンは、私自身にも似ています」
交通事故で母を失ったイニョンは、家賃を払えず住む場所まで奪われてしまう
交通事故で母を失ったイニョンは、家賃を払えず住む場所まで奪われてしまう / [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED


最初の長編作品としてこの物語を選んだ背景には、監督が以前から抱いていた「成長ドラマ」への強い関心があった。「私たちが生きていくということは、日々たくさんの試行錯誤と成長を重ねていくことなのではないか」と考え、人と人との絆、感情を丁寧に描くことを目指したという。

主人公は、交通事故で唯一の家族である母を失い、家賃滞納で住む場所までも奪われてしまう高校生イニョン。絶望的な状況にありながらも、彼女は持ち前の明るさを失わず、自身が所属する芸術団の練習室にこっそりと隠れ住むことを選ぶ。
【写真を見る】『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』のプロモーションのために来日したキム・ソヒョン監督
【写真を見る】『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』のプロモーションのために来日したキム・ソヒョン監督 / [c]motoishiduka


イニョン役を演じたのは、『ソウォン 願い』(13)でソル・ギョングの娘役で映画デビューを飾ったイ・レ。『犬どろぼう完全計画』(14)や『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)などで実力を見せてきた。イ・レと初めて会った際、目を見て「この子の話はきっと聞くべきだ」と感じさせるポジティブなオーラに惹かれたという監督。彼女を、「澄んでいて明るく、活気があり、自信に満ちた魅力的な笑顔を持った俳優」と評する。そして、それはイニョンを演じるために欠かせない資質だったという。

「イニョンが持つ限りない明るさは、ときに自分自身のつらさをうまく表現できず、心の奥に隠してしまう悲しさでもあります。しかし最終的には、その明るさで自分の暗くつらい気持ちさえも照らし、周囲の人たちにも影響を与える力を持っている人物だと考えました。本当はつらいのに『つらい』と言えず気丈に笑ってみせるイニョンは、私自身にも似ていると感じます」。

■「ソラは、温かい感情の必要性すら感じなくなってしまった人物」
団員たちから「魔女」と呼ばれる、完璧主義者の芸術監督ソラ
団員たちから「魔女」と呼ばれる、完璧主義者の芸術監督ソラ / [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED


練習室に寝泊まりするイニョンの秘密を知ってしまうのが、ベテラン俳優チン・ソヨン演じる芸術監督のソラだ。ソラは完璧主義で、団員たちから「魔女」と恐れられる冷徹な人物。監督はその内実を、「誰かに親密な優しさを求めることも、与えることもないため、すべてを自分で引き受け、解決しなければなりません。自分が感じている空虚さや孤独に気づくこともなく、そうした自分の姿が周囲に見抜かれていないことに安堵しながら生きているのではないかと考えました」と掘り下げる。そして、「温かい感情を忘れて生きてきた結果、その必要性すら感じなくなってしまった人物」とし、毎日のように頭痛薬を飲むのは、耐えることが習慣になっている表れだと指摘する。

ソラを演じるにあたって、チン・ソヨンは過酷なダイエットや舞踊の練習に熱心に取り組み、ほとんど無表情に近いシニカルな表情やドライな口調を自ら作り上げた。監督からの「絶対に笑わないで」という指示を守り、感情を極限まで抑える演技に徹したという。
ソラの冷たく固まった心をゆっくりと溶かしていくイニョン
ソラの冷たく固まった心をゆっくりと溶かしていくイニョン / [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED


ソラはイニョンを自宅に連れて帰り、2人の奇妙な共同生活が始まる。監督は、この過程をイソップ寓話の「北風と太陽」になぞらえた。

「イニョンは太陽のような笑顔で、ソラの冷たく固まった心を少しずつ溶かしていきます。急ぐこともなく、無理強いすることもなく、ゆっくりと。例えば、イニョンがソラの家の殺風景なバスルームに自分のタオルを掛けるささやかなシーン。こうした小さな“侵入”が積み重ねられることで、ソラの心に温もりが生まれていくのです」。

■「心についた傷に必要な薬は“慰め”なのかもしれない」
いつもイニョンの味方になってくれる、“理想的な大人”ドンウク
いつもイニョンの味方になってくれる、“理想的な大人”ドンウク


そんななか、物語に絶妙なユーモアと安心感をもたらすのが、地元の薬剤師ドンウクだ。監督が彼に託したのは、“理想的な大人”の姿。「何かを強いるのではなく、ただ静かに見守りながら待ってくれること。時には少し子どもっぽい冗談やいたずらを言いながらも、人を笑わせてくれること。それは『笑うことを忘れないでほしい』という応援のようなものだと思います」と語る。

「ドンウクを演じたソン・ソックさんは、とても思慮深く、ユーモアがあり、愉快な俳優です。準備期間には入念に役作りをしてくれますし、非常に積極的。現場では若い俳優たちともすぐに打ち解け、イ・レさんとの相性も抜群でした」。特に驚いたのは、事前の徹底した準備に基づきながら、現場ではまるで即興のように見せる“ライブ感のある演技”でした」。
芸術団のエースであるナリとの関係性も尊い
芸術団のエースであるナリとの関係性も尊い / [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED


実は、薬剤師のエピソードには、監督自身の極めて個人的な思い出が反映されている。脚本執筆中、体調を崩して通った薬局で、親切な薬剤師に癒やされた経験から、「もしかしたら心についた傷に必要な薬は“慰め”なのかもしれない」と気づいたという。さらにそこには、幼い頃の父との記憶も重なっている。難病を患っていた父のおつかいで薬局に通っていた監督は、大きくなってからその「薬」がビタミン剤だったと知った。「父はこれを飲んで、まるで魔法の薬のように、病気がすっかり治ってしまえばいいと願っていたのかもしれません」。その思いが、劇中でドンウクがイニョンにビタミン剤を渡すシーンにつながっている。

■「大丈夫、大丈夫、大丈夫!本当は10回くらい繰り返したかったのです」
華やかな韓国の伝統舞踊も本作の見どころの1つ
華やかな韓国の伝統舞踊も本作の見どころの1つ / [c] 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED


ソウルの芸術団を舞台に、華やかな伝統舞踊が随所を彩る。だが、本作において舞踊は、単なる視覚的な見せ場にはとどまらない。監督は「舞台の上の公演も、どこか競争社会の縮図のように感じられました」と語る。「ステージで美しい踊りを披露するために、厳しく大変な準備を重ね、その困難を乗り越えていく過程。それらすべてが、人の感情の喜びや悲しみ、怒りや楽しさといった『喜怒哀楽』に重なるように思えたのです」。

舞踊の演出には、徹底したリアリズムを貫き、準備期間には実際の舞踊芸術団を訪ねて稽古や生活を丁寧に観察。映画の冒頭で披露される「六鼓舞(ユッコム)」などの伝統的な演目の一方で、終盤ではコンテンポラリーダンスをワンピース姿で踊るという大胆な挑戦も試みた。「変化と自由な動き、大人の世代と若い世代の調和、そして楽しさという感情を表現したいと考えました」。

こうした繊細な積み重ねが、ベルリン国際映画祭での快挙へと繋がった。最優秀作品賞を受賞した「Generation Kplus」は、子どもを題材にした映画を対象とした部門で、審査員も子どもたちが務めるのが特徴。世界の観客が共感した理由について、監督はこう分析する。「結局のところ、これは『私たちの物語』だからではないでしょうか。夢を叶えたい、幸せになりたいという気持ちは、誰もが同じ。13歳のドイツの男の子が『生まれてから観た映画のなかで一番よかった』と親指を立てて伝えてくれた姿が心に焼き付いています」。
日本の観客へのメッセージも要チェック!
日本の観客へのメッセージも要チェック! / [c]motoishiduka


タイトルの『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』と3回繰り返される言葉には、切実な願いが込められている。「自分がつらいとき、いちばん聞きたい言葉は何だろうと考えたとき、『大丈夫だよ』という言葉が思い浮かびました。『大丈夫?』と気にかける言葉であり、『きっとうまくいくよ』という励ましであり、『大丈夫!』と安心を与える慰めでもある。本当は10回くらい繰り返したかったのですが、さすがに長すぎるので3回にしました(笑)」。

最後に日本の観客に向けて、監督はこうエールを送った。「うまくできなくても、不器用でも、失敗してしまっても、完璧でなくても、『それでも大丈夫』と思って、また立ち上がってみて。時に孤独でつらいこともありますが、それでも大丈夫だと思えるのは、誰かと共にいるから。ささやかでも大切な慰めを届けられたら幸せです」。

取材・文/桑畑優香
配信元: MOVIE WALKER PRESS

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