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「苦しまずに死にたい」「家族に迷惑をかけたくない」…“ぽっくり死”願望の裏にある本当の不安

「苦しまずに死にたい」「家族に迷惑をかけたくない」…“ぽっくり死”願望の裏にある本当の不安

「理想の死」としてしばしば挙げられる「ぽっくり死」。その背景には、死に至るまでの苦しみへの恐れだけでなく、家族に迷惑をかけたくないという切実な思いもある。死を前にした不安は身体的な痛みにとどまらず、別れや孤独、存在の消滅にまでおよぶのだ。緩和ケアの役割とともに、望ましい最期をめぐる人々の本音とは。


臨床死生学・悲嘆学を専門とする坂口幸弘氏が考察した『人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち1回目〉

ぽっくり死を望む人が多い理由

理想の死として「ぽっくり死」を望む人が多いのはなぜだろうか。

同財団の2023年調査において、「ぽっくり死」を選んだ理由として最も多かったのは「苦しみたくないから」であり、全体の69.0%を占めていた。つまり、「ぽっくり死」を希望する人の約7割が、死に至るまでの苦しみを避けたいと考えている。

この傾向は、他の調査結果とも符合している。同財団がこれまでに行った意識調査(2006年/2008年/2012年/2018年/2023年)では、「自分の死期が近いとしたら、どんなことが心配や不安か」という問いに対し、いずれの年次でも「病気が悪化するにつれ、痛みや苦しみがあるのではないか」という回答が最多で、回答者全体の約6割を占めていた。

すなわち、死を前にして多くの人が抱く最大の不安は、病状の悪化による痛みや苦しみなのである。

もっとも、「ぽっくり死」であっても、苦しまないとは言い切れない。急性心筋梗塞では、胸が締めつけられるような激しい痛みが20分以上続くことがあり、くも膜下出血では、バットで頭を殴られたような激痛を伴うこともあるという。

にもかかわらず、多くの人の認識として、がんなどの慢性疾患による「ゆっくり死」の方が、死に至るまでの苦しみが大きく、長く続くと考えられがちである。

日本の医療は日々進化しており、死因の第1位であるがんも、部位によっては早期発見により根治が可能となり、全体として10年生存率は上昇している。進行がん、すなわち原発部位から他の臓器やリンパ節に転移したステージ4の状態でも、部位によっては10年以上生存できる可能性が10%以上ある。

このように、がん治療の成績は向上しているものの、がんを「怖い病気」と考える人は依然として多い。内閣府が2023年に実施した『がん対策に関する世論調査』によれば、

「がんに怖い印象を持っている」と回答した人は90.2%にのぼり、「がんは怖い」という認識がほぼ共通している。その理由として最も多かったのは「がんで死に至る場合があるから」(81.6%)、次いで「がんやその治療によって痛みなどの症状が出る場合があるから」(62.6%)であった。

死を前にした「苦しみ」は、痛みや倦怠感などの身体的なものだけではない。同財団の2023年調査では、死を前にして人々が抱く心配や不安のうち、2番目に多かった回答は「家族や親友と別れなければならないこと」で全体の42.5%であった。「自分が死ぬとどうなるのか、どこへ行くのか」といった不安も24.0%に見られた。また少数ではあるが、「自分の存在が消滅すること」(14.1%)、「この世から忘れられてしまうのではないか」(5.9%)、「家族や親友から忘れられてしまうのではないか」(4.7%)といった、自己の存在そのものに関わる不安も示された。

これらの苦悩は「スピリチュアルペイン」と呼ばれ、京都ノートルダム女子大学名誉教授の村田久行氏によれば、「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義されている。

必ずしも終末期患者に限ったものではないが、「私の人生は何だったのか」「死んだら私はどうなるのか」「なぜ私が死ななければならないのか」「人の世話になって生きていても意味がない。早く死なせてほしい」「孤独だ。自分一人取り残された感じだ」「何の希望もない」などの言葉として、スピリチュアルペインは表現されるという。

緩和ケアとは何か

こうした身体的な痛みやつらさ、心理社会的な苦痛、スピリチュアルペインを和らげる医療として「緩和ケア」がある。緩和ケアは、1960年代にイギリスで始まったホスピスケアの考え方を受け継ぎ、1970年代にカナダで提唱されたものである。世界保健機関(WHO)は2002年に、緩和ケアを次のように定義している。

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」

日本でも、緩和ケアは徐々に浸透しつつある。『ホスピス緩和ケア白書2024』によれば、2022年度には全がん患者の16.5%が緩和ケア病棟で亡くなったと推計されている。緩和ケア病棟とは別に、2006年以降は、全国のがん診療連携拠点病院には緩和ケアチームの設置が義務づけられ、緩和ケア外来も設置されている。

さらに、2016年には「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が診療報酬制度に新設され、在宅緩和ケアも推進されている。1990年代以降、アメリカやカナダでは高齢者医療と緩和ケアを統合し、がんのみならず認知症や脳血管障害など広く高齢者の疾患を対象とするケアとして「エンド・オブ・ライフ・ケア」という考え方も広まっている。

がん医療の現場では、がんと診断された時点から、患者の身体的苦痛だけでなく、患者・家族の精神的・社会的・スピリチュアルな問題に対応し、苦痛を和らげるための緩和ケアが定着しつつある。仕事や家庭など社会的な悩みや困りごとについては、患者総合支援センターや医療相談室などに所属する医療ソーシャルワーカーが対応している。

しかし、緩和ケアに関する知識や情報が社会全体に十分に共有されているとは言いがたい。「緩和ケアは治療ができなくなった終末期に行うもの」「がんの痛みや苦しみは我慢するしかない」といった古いイメージを持つ人も少なくないのが現状である。

ホスピス財団では、講演会の開催や機関誌の発行などを通じて、緩和ケアやホスピスケアへの理解を促すための啓発活動を続けている。

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