携帯持ち込み禁止、制服、宿題……学校に根付く数々のルールは、本当に子どものためになるのか。世田谷区立桜丘中学校・元校長の西郷孝彦氏が校則を撤廃してきた事実が問いかけるのは「教育の常識」はそもそも誰のために存在しているのか、という根本的な疑問だ。そして、実際に校則や慣習を変えるうえで本当に難しいのは、生徒への対応ではなく、先生たちのマインドを変えることだという。
書籍『公教育をあきらめるな!』より一部を抜粋・再構成し、その手法の一部を解説する。
いらないものをなくす。チャイムと宿題
宝上 チャイムもなくされたんですね。
西郷 2023年に亡くなった坂本龍一さんが、かつてテレビ番組で、出演者から「いい音と悪い音はありますか?」という質問をされて、その答えがとても良かった。「音楽を作っている自分が、こういう回答をするのも変ですけれども、人間が作った音というのは、いいのはあんまりありません。自然の音はだいたいいい音です」と言うんですね。
その後にさ、「よく商店街とかで決まった時間に鳴るチャイムが最低ですね、あれを日本の人がみんな聴いているのは悲しくなります(笑)」と続けた。
その時、僕は「あっ、学校のチャイムも同じだ」と思ったのね。坂本さんも本当に耳が敏感で、通学の混んだ電車の中で、目を閉じていろいろな音を聞き分けながら遊んでいたというエピソードがあるんだけど、その坂本さんがチャイムは大嫌いだと。
だから、そういう感覚。
美的感覚からもチャイムというのは、芸術家は耐えられないんですよ(笑)。僕も全然ダメで、桜丘中学校に行った最初の日に、校長室のスピーカーを取っちゃった(笑)。何しろ押しつけがましいチャイムが大嫌い。
宝上 チャイムがなくても問題なく学校が機能するという確信はあったんですか?
西郷 たまたまうちの子が通っていた小学校はチャイムが鳴らなかったんだよ。ごく普通の公立の小学校だよ。僕もある日、授業参観で行って気がついたんだけど、小学生がみんな自発的に教室に行くんだよ。特に午前中の「中休み」といって15分の休み時間があるの。
わーって校庭で遊んでいる小学生を見て、チャイムがないのにどうするんだろうって見ていたんだ。そうしたら、チャイムが鳴らないのに、時間になるとスーっとみんな子どもたちが教室へ戻って行くんだ。驚いたよ。
何だ、小学生でもできるんだ。じゃあ、中学生ができないわけないなと思って、学校で「うちもなくせない?」と言ったら、先生たちも納得してくれた。それまでチャイムが鳴らないと授業にちゃんと来られないと先生たちは思い込んでいた。僕もそう思っていた。それでまずはチャイムの鳴らない日というノーチャイムデーというのを作って、教員にも浸透させていった。
宝上 でも先生方がその日をどう捉えるか、というのがあるじゃないですか。実験をした結果、ほら、やっぱりチャイムあった方がいいじゃないかとなる。そういうケースはなかったですか。
西郷 いや、ノーチャイムで生徒が動けるかを試す日じゃないんだよ。ノーチャイムというイベントなんだよ。この日はチャイムは鳴らない。そしてチャイムが鳴らないことで、いろんなことが起こったっていい。
イベントだから、夏に桜丘中学校でやった浴衣の日と同じ。今日は浴衣を着て授業を受ける日、ああ、体育の授業は浴衣じゃできないなあとか、トイレは大変だなあとか、確かにいろいろ問題は起こるかもしれないけど、日常とは違う「チャイムが鳴らない」ということを楽しんでみようかと。
宿題やめたら学力上がった
宝上 そうなんですね。でも物理的になくすことは簡単だけど、先生たちのマインドというか、先生方は、その急激な変化に戸惑われなかったですか?
西郷 それは段階を踏んでいった。例えば生徒の制服の着用義務を一切なくす前に、まず土曜登校日は制服着なくていい日にしたりとか工夫をしました。やっぱりふだん、生徒の私服姿を見慣れていない先生たちの目には「制服を着ないと何だかおかしい」と見えてしまうので、慣れてもらうためには必要なことなんだ。
そうやってだんだん目が慣れてくると、何だ、別に制服なくたってみんな普通に勉強しているじゃないかとなる。
じゃあ制服が着られないことが原因で学校へ来られない生徒がいるぐらいなら、無理して着なくてもいいことにしましょうとなって、先生たちも納得する。そもそも東京の小学校には制服なんかあまりないから、ほとんどの小学校の先生は「制服が必要」なんて思ってもいない。
でも、地方の制服のある小学校には、「制服がある方が洗濯もしやすい」などとわけの分からないことを言っている先生も実際にいるんだ。完全に洗脳されている。
それを聞いた時には驚いたよ。だから、やっぱり段取りが必要で、それは子どもじゃなくて先生のために必要でした。
宝上 言われてみれば、何か学校の中は教員の思い込みだらけな気がします。宿題は出さなきゃいけない、提出しなきゃいけない。何かいっぱいある決まりごとが子どもも大人も、学校に入る前から決まっているみたいな。
西郷 宿題ね。桜丘中学校では塾に行っている子に宿題は一切出さなかったのね。塾の邪魔になるから。お金払って塾で勉強している人に、一律的にレベルが全然違うような宿出したって無駄じゃない。宿題やめたら学力上がったよ。受験に必要な個別最適な指導はみんな塾でやっている。

