宇宙の偏りは本物か?国際共同研究が迫る

銀河の地図から見えてきた「宇宙の奇妙な流れ」は、単なる話題づくりを超え、宇宙の姿そのものを考え直すきっかけを私たちに与えています。
この研究の成果は、私たちが「どこを見ても同じはず」と信じてきた宇宙に、実は思った以上の偏りが潜んでいるかもしれないというヒントを投げかけています。
ひとつの見方として、宇宙論の標準モデルではあまり考慮されていない局所的な構造が、私たちの銀河分布に想像以上のゆがみを与えている可能性があります。
たとえば、私たちの銀河団が属する巨大な領域の周囲に、まだ見つかっていない大きな銀河の集まりや空白地帯があり、それが銀河数の地図に影響しているのかもしれません。
もう一つの見方として、宇宙全体が特定の方向にゆっくりと動く「巨大な流れ(バルクフロー)」を示しているという仮説もあります。
もしこの仮説が本当だとすれば、宇宙の初期条件や重力の仕組みに、これまでの理論を超える新しい物理が隠れている可能性があります。
要するに、私たちはいま「宇宙に未知の偏りがある可能性」を本気で検討すべき段階に入っているのです。
もちろん、今回の結果がすぐに宇宙論をひっくり返す決定打になるわけではありません。
しかし観測技術は日々進歩しており、これからさらに高感度・高解像度で宇宙全体をマッピングできる時代が近づいています。
新世代の巨大電波望遠鏡SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)のような計画では、この奇妙な流れがもっと精密に測られ、その正体が明らかになることが期待されています。
また、この研究は公開されているため、独立した研究者たちによる再解析や追試が進めば結果の信頼性はいっそう高まるでしょう。
本研究を主導した著者たちは各国の大学や研究機関に所属し、プロジェクトはドイツ、イタリア、イギリスなどの科学財団から資金提供を受けています。
論文には特筆すべき利益相反(COI)の記載は見当たらず、純粋な科学的好奇心に基づいた研究だといえます。
宇宙に潜む謎の潮流——その正体が明らかになれば、私たちの宇宙観を大きく変えることになるでしょう。
元論文
Overdispersed radio source counts and excess radio dipole detection
https://journals.aps.org/prl/accepted/10.1103/6z32-3zf4
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

