最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
アイザイア・トーマス――苦難を乗り越え輝いた“バッドボーイズ”ピストンズのリーダー【レジェンド列伝・前編】<DUNKSHOOT>

アイザイア・トーマス――苦難を乗り越え輝いた“バッドボーイズ”ピストンズのリーダー【レジェンド列伝・前編】<DUNKSHOOT>

NBAの元スーパースターの中でも、アイザイア・トーマスほど現役時代と引退後の評価に落差があった人物はいないのではないか。

 ニューヨーク・ニックスのチームプレジデントに就任以降、次から次へ使えない選手と高額契約を結ぶ。ヘッドコーチを兼務しても、まったく成果は上がらない。挙句の果ては元従業員の女性からセクシャルハラスメントで訴えられ有罪判決を食らう……。

 まさしく踏んだり蹴ったり。ニックス退団後、他のNBAチームから再就職の声が一切かからなかったのも、これでは無理もなかった。

■青春時代の苦難を乗り越え、見事に才能を開花させた天才

 トーマスが生まれ育ったのは、シカゴでも最貧困層が住むゲットー。麻薬と暴力が日常の世界で、トーマスの母親メアリーは父親のいない10人家族をたくましく育てていた。 町を支配するギャングが子どもたちを勧誘にやってきた時も、ショットガンを突きつけて追い払うほど肝の据わった母親だった。
  兄弟の中には道を踏み外す者もいたが、幸いにもアイザイアにはバスケットボールの才能があった。名門インディアナ大に進学し、闘将ボビー・ナイトの下で徹底的にポイントガードとしての基礎を叩き込まれ、2年生時に見事NCAAトーナメントを制覇した。

「貧しさから抜け出すにはバスケットボールしかない」

 家計を支えるためにも、1981年のドラフトヘアーリーエントリーしたトーマスの意中の球団は、地元のシカゴ・ブルズ。全体1位指名権を持っていたダラス・マーベリックスには最初から行かないことを明言していた。トーマスを諦めたマーベリックスは、代わりに彼と小学校時代からの親友であるマーク・アグワイアを指名した。

 トーマスは2位指名権を持つデトロイト・ピストンズ行きも渋っていたが、強行指名を受けて入団を決意。「いつかこのチームを、ボストン・セルティックスやロサンゼルス・レイカーズにも負けないチームにする」と記者会見で力強く語った。

 しかし、当時のピストンズには、トーマスがどれほど巧妙にオフェンスを組み立ててもシュートを決められる選手がいなかった。仕方なく自ら得点を稼げば、ショットを打ちすぎだと言われる始末。やる気を失って大学に戻ろうかと考えたこともあった。
  1984年のプレーオフ1回戦、対ニックスの第5戦で第4クォーター残り2分から16得点を稼ぐ奇跡的な得点ショーを繰り広げた時も、まさしく孤軍奮闘で試合には敗れた。

 それでも、次第にトーマスをサポートできる選手たちも集まり始めた。入団当初のルームメイトだったビル・レインビアは、体格から性格、政治的信条まであらゆる意味でトーマスとは対照的だったが、極めて頭が切れる点と、勝利に対して強い執着心を持つところは共通していた。

 1985年には優れたディフェンダーであるジョー・デュマースが入団し、トーマスとのガードコンビが完成。続いてリック・マホーン、デニス・ロッドマンら頑強な肉体と精神力を併せ持つ守備の名手たちが加入し「全員が口から血を流すまで戦う」(マジック・ジョンソン談) 史上最悪の荒くれ集団 “バッドボーイズ”が形成された。

 バッドボーイズのリーダーとして、トーマス以上の人材はいなかった。

「私は自分でリーダーだと言ったことはない。いつだって、自然とリーダーになっていたのさ」
  この天性の資質に加え、必要な時に得点とアシストパスを使い分ける判断力も抜群だった。「トーマスの身長がもう少し高かったら、彼こそがマイケル・ジョーダンになっていただろう」とさえ言われた。

 ただ、当時はラリー・バードを擁するセルティックスの全盛時代。バスケットボールセンスやメンタル面の強さで、バードはトーマスと同等かそれ以上のものを持っており、ケビン・マクヘイルやロバート・パリッシュらのチームメイトの質、チームの一体感でもセルティックスが一枚上だった。

 1986-87シーズンのカンファレンス決勝で対戦した時は、勝利を目前にしながらトーマスのインバウンズパスをバードがスティールし、そこから逆転のアシストにつなげる神業的なプレーで敗れてしまった。悔しさのあまり「バードが今の地位にいるのは白人だからだ」というロッドマンの発言に同調してしまい、トーマスは後日涙ながらに謝罪する羽目にもなった。(後編に続く)

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2008年3月号原稿に加筆・修正

【画像】NBA最強の選手は誰だ?識者8人が選んだ21世紀の「ベストプレーヤートップ10」を厳選ショットで紹介!
配信元: THE DIGEST

あなたにおすすめ