月経を模倣するヒトオルガノイドが開く治療への道

今回の研究によって子宮の再生を実験室でじっくり解析する手法が得られました。
この成果の中でも特に注目すべきは、子宮内膜が再生するとき、これまで注目されてこなかった「表面の細胞(ルミナル上皮)」が大きな役割を果たしている可能性が見えてきた点です。
これまでの研究では、再生の主役は内膜の奥にある基底層の幹細胞と考えられていました。
しかし今回の発見は、「目立たない存在」だった表層の細胞が実は再生をリードしているかもしれない、という全く新しい見方を提示しました。
これは舞台の主役が、ずっと裏方にいたという意外な真実が明らかになったとも言えます。
こうした新しい視点は、子宮内膜の再生や月経に関わるさまざまな症状の理解に役立つ可能性があります。
現代の医学でも、子宮内膜症や不妊症、月経困難症などの治療は難しく、多くの人が悩んでいます。
もし今回わかった再生の仕組みがさらに解明されれば、こうした病気の原因解明や、新しい治療法・薬の開発につながるかもしれません。
実際、研究チームはこのオルガノイドを使い、今後さらに病気の原因究明や新薬候補の発見につなげていくことを目指しています。
ただし、この成果をそのまま現実に当てはめる前に注意が必要です。
現在のオルガノイドモデルは、子宮内膜の上皮細胞のみで作られています。
本物の子宮内膜には、上皮細胞だけでなく間質細胞や血管、免疫細胞など様々な細胞が含まれますが、今回の研究ではこれらは再現されていません。
それでも、今回の研究によって、これまで解き明かせなかった子宮再生のメカニズムに迫る新しい実験手法が生まれました。
この「ミニチュア子宮」を活用した研究が今後さらに進めば、月経という不思議な再生力の秘密が少しずつ明らかになっていくでしょう。
元論文
An organoid model of the menstrual cycle reveals the role of the luminal epithelium in regeneration of the human endometrium
https://doi.org/10.1101/2025.07.03.663000
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

