
「なんだかこの曲、イライラする……」
そんなとき、無性にチョコやグミなど甘いものが欲しくなった経験はないでしょうか。
単なる気のせいと思われがちなこの感覚ですが、実は科学的な裏付けがある可能性が示されました。
オーストリア・グラーツ大学(University of Graz)の研究チームは、好きな音楽と嫌いな音楽が食欲や食べ物の選択に与える影響を調査。
その結果、嫌いな音楽を聴いた後には全体的な食欲は低下するにもかかわらず、高糖質の食品を食べたいとの欲求が高まることを発見しました。
研究の詳細は2026年の学術誌『Appetite』に掲載されています。
目次
- 音楽が食欲を変える?ビュッフェ形式で検証された実験
- 食欲は減るのに甘いものは増える?「気分」と脳の補償行動
音楽が食欲を変える?ビュッフェ形式で検証された実験
音楽は私たちの日常に深く入り込んでおり、レストランやスーパー、街中など、意識しなくても常に耳に入ってきます。
そして音楽は気分やストレスに影響を与えることが知られています。
研究チームは、この「気分の変化」が食行動にどう影響するのかを確かめるため、106人の参加者を対象に実験を行いました。
参加者は平均25歳で、実験前には少なくとも3時間の絶食が求められました。
参加者は次の3つのグループに分けられます。
・好きな音楽を聴くグループ
・嫌いな音楽を聴くグループ
・音楽を聴かないグループ
各参加者は事前に「特に好きな曲」と「特に嫌いな曲」を1曲ずつ持参し、それを実験中に再生しました。
その後、参加者はテーブルに並べられた9つのアイテムを自由に見ることになります。
そこには高糖質食品(ヴィーガングミ)、低糖質食品(ブドウ、オレンジ、リンゴなどの果物)、そして食べ物ではない物体(ガラス玉やボールなど)が混在していました。
研究者は視線追跡装置を用いて、参加者がどれをどれだけ見たかを記録するとともに、「どれを食べたいか」「実際に何を選ぶか」を測定しました。
食欲は減るのに甘いものは増える?「気分」と脳の補償行動
その結果は興味深いものでした。
嫌いな音楽を聴いたグループでは、全体的な食欲はむしろ低下していたにもかかわらず、高糖質食品を選ぶ割合が大きく増加したのです。
実際に、約62%の参加者がグミなどの甘い食品を選択しました。
これに対し、好きな音楽のグループでは24%、音楽なしのグループでは38%にとどまりました。
一方で、好きな音楽を聴いた場合や音楽がない場合には、果物といった低糖質の食品を選ぶ傾向が強まりました。
さらに重要なのは、この違いが「どれだけ食べ物を見ていたか」では説明できなかった点です。
参加者はどの条件でも食べ物を長く見ていましたが、甘いものを選ぶかどうかは視線ではなく「気分」によって左右されていたのです。
研究者たちはこの現象を「補償的消費(感情的摂食)」として説明しています。
嫌いな音楽によって気分が悪化すると、脳はその不快感を打ち消すために、強い報酬をもたらす砂糖の多い食品を求めるようになります。
つまり、空腹だから食べるのではなく、「気分を回復するために食べる」という行動が引き起こされていたのです。
今回の研究は、私たちが何を食べるかが単なる空腹だけで決まるわけではなく、「耳にしている音楽」によっても左右されることを示しています。
もしダイエット中に甘いものがやめられないと感じたとき、その原因は意志の弱さではなく、周囲の音楽の理由の一つかもしれません。
逆に言えば、好きな音楽を選ぶことが、より健康的な食行動を後押しする可能性もあります。
日常にあふれる音楽が、知らないうちに私たちの「食べたいもの」まで変えている。
そう考えると、次に流れてくる一曲の選び方が、少し気になってくるかもしれません。
参考文献
Listening to bad music makes you crave sugar, study finds
https://www.psypost.org/listening-to-bad-music-makes-you-crave-sugar-study-finds/
元論文
Eye candy & eye tunes: Effects of liked vs. disliked music on desire to eat and food choice in an eye-tracking buffet paradigm
https://doi.org/10.1016/j.appet.2025.108438
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

