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赤ちゃんの脳は意外にも「低速」で情報処理していた

赤ちゃんの脳は意外にも「低速」で情報処理していた

赤ちゃんの脳は意外にも「低速」で情報処理していた
赤ちゃんの脳は意外にも「低速」で情報処理していた / Credit:Canva

ドイツのレーゲンスブルク大学(UR)とイギリスのオックスフォード大学(Oxford)で行われた最新の研究によって、赤ちゃんの視覚を処理する脳には大人とは明確に異なる、非常にゆったりとした独自のリズムが存在している可能性が明らかになりました。

研究チームは、生後約8ヶ月の赤ちゃんに様々な速度で点滅する映像を見せながら脳波を調べたところ、乳児の脳波には1秒間に約4回(4Hz)というスローペースの波がはっきりと現れました。

これは、成人の脳波で主役となる1秒間に約8〜10回(アルファ波帯)のリズムとは大きく異なるものです。

さらに、この乳児特有の4Hzのリズムは、目の前の映像が消えた後でも「やまびこ」のように脳の中で約1秒間反響し続けることも確認されました。

このようなゆっくりした脳のリズムは、赤ちゃんが外界の情報を何度も繰り返し吟味し、しっかりと学習するために役立っているのかもしれません。

ではなぜ、赤ちゃんの脳はこのような特別なスローリズムを持っているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月11日に『bioRxiv』にて発表されました。

目次

  • スポンジのように吸収する赤ちゃん脳は高速なのか
  • 赤ちゃんの脳は世界を「4Hzのスローモーション」で見ていた
  • 4Hzのリズムが赤ちゃんの学びを支えている?

スポンジのように吸収する赤ちゃん脳は高速なのか

スポンジのように吸収する赤ちゃん脳は高速なのか
スポンジのように吸収する赤ちゃん脳は高速なのか / Credit:Canva

「赤ちゃんの目には世界がどう映っているのかな?」

こんな素朴な疑問を、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

赤ちゃんは毎日が初めての連続です。

目にするもの、耳にする音、そのすべてが新鮮なのに、不思議なことに次々と新しいことを学び取っていきます。

まだ言葉も話せない赤ちゃんが、どうしてこんなにも短い期間で言葉や身の回りの動きを覚えられるのか、その仕組みはずっと科学の謎でした。

一般的にはよく、「赤ちゃんの脳はスポンジみたいにどんどん吸収する」と言われます。

ここで、「吸収する」という言葉の印象から、赤ちゃんの脳が高速で次々と情報を処理していると想像する人も多いかもしれません。

しかし実際に赤ちゃんと遊んでいると、おもちゃを素早く動かしても、赤ちゃんは即座には反応しません。

むしろ赤ちゃんは、じっくりと興味深そうに見つめ、ゆっくりと微笑みながら手を伸ばしたりします。

絵本をめくって見せたときも、ページを高速でめくるより、1枚の絵をじっくり見せたときの方が、赤ちゃんは長く視線をとどめていることが多いと報告されています(保育現場や発達心理の観察でよく知られた現象です)。

さらに、親の顔を見つめてから微笑むまでにワンテンポ遅れがある「ソーシャルスマイル」や、音楽のリズムに反応するまでに少し時間がかかる「拍への同調」なども、乳児期に典型的に見られる行動です。

この姿を見ると、まるで赤ちゃんの目には目の前の世界がゆったりとしたスローモーション映像のように流れているのではないかと思えるほどです。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

実は、人間の脳は、目や耳から入ってきた情報をリズム(繰り返される周期的な動き)を利用して整理しています。

私たちが見たり聞いたりする大量の情報を、脳がそのリズムで仕分けをし、無意識のうちに記憶や認識の準備を整えているのです。

脳が刻むリズムには「ピーク周波数」という重要な考え方があります。

これは、脳の活動で中心となるリズムを表し、この記事では情報を処理する速さ、いわば“脳のテンポ”を意味します。

たとえば、音楽をイメージしてみてください。

ある曲がゆったりしたテンポで進むとき、私たちは一つひとつの音を丁寧に聴き分け、じっくりとその曲を味わいます。

逆にテンポが速くなると、一つひとつの音よりも、音の流れやリズム感に意識が向きますよね。

脳のピーク周波数もこれと同じように、その人がどんなテンポで世界の情報を感じ取り、整理しているかを表しているのです。

ピーク周波数がゆっくり(低い)ということは、脳が情報をゆっくりと丁寧に処理していることを意味し、ピーク周波数が速い(高い)場合は、脳が情報を素早く取り込んで効率よく整理しているということになります。

おもしろいことに、このピーク周波数は年齢とともに少しずつ速くなっていくことが知られています。子どもの頃はゆっくりだった脳のリズムが、大人になるとだんだん速くなる傾向があるのです。

つまり、赤ちゃんと大人とでは、世界をどう感じ取り、どう処理するかという「脳のテンポ」が根本的に違っている可能性があります。

けれども、赤ちゃんが実際にどんなテンポで世界を感じているのかを科学的に確かめるのは、とても難しい課題でした。

理由は単純です。

赤ちゃんに「いま、脳のリズムはどう感じてる?」とたずねることはできませんし、脳波(EEG)を安定して測るのも簡単ではありません。

動き回ったり泣いたりする赤ちゃんから、正確なデータを取るのは本当に大変なのです。

こうした大きな壁を越えるため、ドイツのレーゲンスブルク大学とイギリスのオックスフォード大学の研究チームは新しい方法を考えました。赤ちゃんがじっと画面を見ているだけで、脳が刻んでいるリズムを“こっそり盗み聞き”できるしくみを工夫したのです。

この実験によって、研究者たちは「赤ちゃんには世界がゆったりとしたスローモーションのように見えているのか?」というワクワクする問いに、ついに挑戦できるようになりました。

赤ちゃんの脳は世界を「4Hzのスローモーション」で見ていた

赤ちゃんの脳は世界を「4Hzのスローモーション」で見ていた
赤ちゃんの脳は世界を「4Hzのスローモーション」で見ていた / Credit:Canva

赤ちゃんの脳の情報処理は速いのでしょうか、それとも遅いのでしょうか。

このシンプルな疑問に答えるため、研究チームは「見るだけで脳のテンポを測る」特別な方法を考案しました。

実験では、生後8か月前後の赤ちゃんが保護者の膝に座り、画面に現れるカラフルなキャラクターを眺めました。

映像は時には規則正しく(2〜30Hz)点滅し、時にはリズムのない「ブロードバンド刺激」と呼ばれる、決まった周期がない光の変化も混ぜられました。

頭には小さなセンサーをつけ、64チャンネルの脳波計(EEG)で脳のリズムを記録しました。

赤ちゃんはただ画面を見るだけでよく、負担は最小限でした。

すると、驚くべきパターンが現れました。

どの点滅条件でも、赤ちゃんの脳波には約4Hz(1秒に4回の波、いわゆるシータ波帯)のリズムが安定して現れたのです。

この4Hzの成分は、画面に静止画像を見せた場合にも確認されましたが、刺激を完全に省いたときには有意な増加は見られませんでした。

一方で、大人に多い8〜14Hz(アルファ波帯)の独立した応答は見られず、乳児の脳では4Hzこそが特別な拍であることが浮かび上がりました。

言い換えれば、赤ちゃんの脳は自分の4Hzリズムを保ちながら外界の刺激に同調していると考えられます。

さらに、ランダムな点滅(ブロードバンド刺激)のときにも面白い現象が起こりました。

赤ちゃんの脳は入力信号に対して約4Hzの「やまびこ(エコー)」のような反応を返していたのです。

このエコーは刺激提示後およそ1秒間、4Hzで約4サイクル分続き、映像のリズムが脳内で反響しているかのようでした。

そして入力信号から4Hz成分だけを取り除くと、そのエコー反応も消え、4Hzだけが特別に共鳴していたことが確かめられました。

これは、赤ちゃんの脳が4Hzの情報を何度も「響かせて」処理していることを示しています。

比較のために健常な成人7名でも同じ実験を行いましたが、結果は大きく異なりました。

成人の脳波では有意な4Hzのエコーは見られず、その代わりに約10Hz(アルファ波帯)の共鳴応答が確認されました。

つまり、乳児期の脳がシータ波(4Hz)で「刻む」のに対し、成人の脳はアルファ波(約10Hz)で「刻んで」いるのです。

この違いは脳内ネットワークの発達を反映しており、乳児の脳内リズムが成長にともなってシータ帯からアルファ帯へ移行していく過程を示唆しています。

配信元: ナゾロジー

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