
「この化石は新種の翼竜だ!」
そんな驚きの報告が2025年にブラジルから発表されました。
細長い“歯”が何百本も並ぶ奇妙な顎の化石は、空を飛んだ古代の爬虫類「翼竜」のものと考えられ、大きな注目を集めたのです。
しかしその後、英ポーツマス大学(UOP)らの再検討により、この化石の正体はまったく異なるものだったことが明らかになりました。
なんとそれは、翼竜ではなく「魚のエラ」だったのです。
研究の詳細は2026年の学術誌『Anais da Academia Brasileira de Ciências』に掲載されています。
目次
- 翼竜の歯に見えた「奇妙な構造」の正体
- 正体は「魚のエラ」、歴史的な誤認の再来
翼竜の歯に見えた「奇妙な構造」の正体
問題の化石は、ブラジル北東部アラリペ地域の約1億1000万年前(白亜紀前期)の地層から発見され、「バキリブ・ワリザ(Bakiribu waridza)」と名付けられました。
当初の研究では、この標本は
・細長い歯が密集した顎(あご)の断片
・しかも2体分の翼竜が混ざったもの
・さらに恐竜が吐き出した“吐瀉物化石(レガージタライト)”
と解釈されていました。
確かに、翼竜の中には細かい歯を持つ種類も知られており、この奇妙な構造は一見するとそれらとよく似ていたのです。
しかし、後に詳細な分析が行われると、いくつもの違和感が浮かび上がりました。
まず、この「歯」には歯に必須の構造がありませんでした。
通常の歯には、エナメル質や象牙質といった特徴がありますが、バキリブにはそれらが見られなかったのです。
【魚と再解釈された化石の実際の画像がこちら】
さらに重要なのは、歯の並び方です。
翼竜の歯は左右対称に並ぶのが基本ですが、この標本ではその規則性が確認できませんでした。
つまり、「歯のように見えるが、歯ではない」構造だったのです。
では、それは何だったのでしょうか。
正体は「魚のエラ」、歴史的な誤認の再来
再検討を行った研究チームは、これらの構造が魚の「鰓(えら)」に由来するものであると結論づけました。
細長い“歯”のように見えた部分は、実際には水中で呼吸を行うための「鰓フィラメント(えらの繊維状構造)」でした。
また、顎とされていた骨も、詳しく調べると魚のエラを支える「鰓弓(さいきゅう)」の一部と一致することが判明しました。
つまりこの化石は、
・大型の魚のエラの構造
・それが崩れてまとまった状態
・さらに小型の魚と一緒に保存されたもの
だったのです。
当初提案されていた「恐竜の吐瀉物」という解釈も否定され、実際にはこの地域でよく見られる、堆積物が固まってできたコンクリーション(塊状化石)と考えられました。
興味深いことに、実はこのような誤認は今回が初めてではありません。
1939年にも、翼竜の顎とされた化石が、後に魚のエラであったと判明した例があります。
今回のケースは、その“現代版”とも言える出来事だったのです。
この再解釈により、「バキリブ・ワリザ」という種は、有効な分類が難しい「疑問名(nomen dubium)」とみなされることになりました。
科学は間違いを認めながら、前進する
今回の研究が示しているのは、「翼竜か魚か」という分類の問題だけではありません。
化石は多くの場合、断片的で不完全な状態で見つかります。そのため、解釈にはどうしても不確実性が伴い、誤認が起こることは避けられません。
実際、古生物学者であれば一度は誤認を経験するとさえ言われています。
しかし重要なのは、その誤りが修正されるプロセスです。
現代では、デジタル技術の発展により、研究成果は数日以内に世界中に共有され、別の研究者がすぐに検証を行うことができます。
今回のケースでも、初報からわずか数か月で再解釈が査読論文として発表されました。
科学は決して「一度決まったら終わり」ではありません。
むしろ、新しい証拠によって何度も書き換えられていくものでもあるのです。
参考文献
Why a bizarre Brazil ‘pterosaur’ fossil is now being reclassified as a fish
https://phys.org/news/2026-04-bizarre-brazil-pterosaur-fossil-reclassified.html
元論文
Reinterpretation of Bakiribu waridza from the Romualdo Formation (Lower Cretaceous) of Brazil: a fish not a pterosaur
https://doi.org/10.1590/0001-3765202620251374
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

