
その感謝メール、本当に“本人”が書いたものですか?
上司から届いた丁寧なねぎらいの言葉や、友人からの心のこもったメッセージ。
私たちは普段、そうした文章をその人自身の気持ちとして受け取っています。
しかし、もしそれが人工知能によって作られていたとしたら、あなたはどう感じるでしょうか。
この問いに真正面から挑んだのが、アメリカのデューク大学(Duke University)の研究者らです。
彼らはは、日常的な文章も対象にして、人々がAIの関与をどのように受け止め、送り手をどう評価するのかを調査。
その結果、人々はAIの使用が明かされた場合には送り手を厳しく評価する一方で、普段のやり取りでは、そもそもAIの関与をほとんど疑っていと判明しました。
この研究は2026年2月26日に『Computers in Human Behavior』誌に掲載されました。
目次
- 人は、受け取ったメールが「AIに書かれた」と知ると、評価を大きく下げる
- 多くの人は、「送り手がAIを使って書いた」と疑わない
人は、受け取ったメールが「AIに書かれた」と知ると、評価を大きく下げる
近年、ChatGPTなどの生成AIは急速に普及し、メールやSNS投稿、チャットの文章作成に日常的に使われるようになっています。
こうした技術は、文章をより早く、より整った形で書けるという利点があります。
しかし、研究者たちが注目したのは別の点でした。
文章は単なる情報ではなく、人柄を伝える手がかりでもあるということです。
例えば、長く丁寧なメッセージは「時間と労力をかけた」「誠実で思いやりがある」と受け取られやすくなります。
ところが生成AIは、この前提を揺さぶります。
短時間で、しかも非常に自然で感情豊かな文章を作れるため、努力して書いたように見える文章を簡単に生み出せてしまうからです。
そこで研究者たちは、AIだと分かったときに評価がどう変わるのかだけでなく、AIかどうか分からない場合や、そもそもAIの可能性が意識されていない場合に、人々がどう判断するのかを調べました。
研究チームは1300人以上の参加者を対象に2つの実験を行いました。
参加者は、研究用に用意された感謝メールや応募文、SNS投稿などの文面を読み、その送り手の印象を評価。
文面は生成AIで作成し、研究用に調整されたものでした。
重要なのは、参加者が置かれる条件です。参加者は次の4つのグループに分けられました。
- 文章の出どころについて何も知らされないグループ
- 人間が書いたと明示されるグループ
- AIが書いたと明示されるグループ
- 人間かAIか分からないとされるグループ
参加者はその後、「誠実さ」「思いやり」「信頼性」などの観点から送り手を評価しました。
結果は非常に明確でした。
AIが使われたと明かされた場合、送り手の評価は大きく下がりました。
一方で、何も知らされなかった場合、評価は人間が書いたとされた場合とほぼ同じだったのです。
つまり、日常の文章では「これは人が書いたものだ」と自然に受け取ってしまう傾向が示されたのです。
いったいなぜでしょうか。
多くの人は、「送り手がAIを使って書いた」と疑わない
研究の第2実験では、さらに踏み込んだ分析が行われました。
参加者には、文章を書いた人がどれくらい時間をかけたと思うか、どれだけ考えを巡らせたと思うか、そしてその文章がどれほど本人の気持ちを反映しているかも評価してもらいました。
その結果、AIが使われたと分かった場合には、これらの評価も低くなりました。
つまり人々は、AIが関与していると知ると、「この人はあまり時間をかけていない」「十分に考えていない」「本人の気持ちがそのまま出ていない」と受け取りやすくなるようです。
ここから見えてくるのは重要なポイントです。
AI使用が知られたときに評価が下がる背景には、「努力していないように見えること」や「本心がこもっていないように見えること」があると考えられます。
一方で、出どころについて何も知らされなかった場合、参加者は送り手を人間の書き手とほぼ同じように見ていました。
時間のかけ方や文章への向き合い方についても、人間が書いた場合と大きな差はありませんでした。
これは、人々が普段のやり取りではAIの可能性をあまり意識していないことを示しています。
さらに興味深いのは、AIを日常的に使っている人であっても、他人のAI使用を特に疑いやすくはならなかった点です。
自分がよく使う人ほど敏感になるようにも思えますが、少なくとも今回の実験では、そうした傾向は強く見られませんでした。
この研究が示す大きなポイントは、「AIの普及」と「人々の認識」の間に大きなギャップがあることです。
AIはすでに広く使われていますが、多くの人はそれに気づいていません。
そしてAIを使ったと分かると、「手を抜いている」「気持ちがこもっていない」と見られ、評価が下がります。
つまり、AIを使っても隠れていれば印象は変わらないのに、正直に明かすと損をするというねじれた状況が生まれているのです。
この結果は、「丁寧な文章=その人の誠実さ」というこれまでの考え方が、少しずつ通用しなくなりつつあることを示しています。
今後の研究では、人々がどのような状況でAIの使用を疑うのか、また何が「疑いのスイッチ」を入れるのかが重要なテーマになるでしょう。
私たちは今、文章の背後にいる「人」をどう信じるのかという問いに直面しているのです。
参考文献
Most people do not realize when a personal message they receive was written by AI, study finds
https://phys.org/news/2026-04-people-personal-message-written-ai.html
元論文
Blissful (A)Ignorance: Despite the widespread adoption of AI in communication, people do not suspect AI use in realistic contexts
https://doi.org/10.1016/j.chb.2026.108929
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

