
私たちが普段何気なく使っている漢字ですが、よくよく考えると、それぞれが独特で面白い形をしています。
線の数や配置、余白の取り方にははっきりした違いがあり、見た目の美しさだけでなく、どこか構造物のような印象もあります。
こうした「形」に着目したのが、イギリスのエディンバラ大学(The University of Edinburgh)の研究チームです。
研究チームは、漢字の形から着想を得て、それを簡略化・対称化した構造を材料設計に応用し、どのような強さや変形の違いが生まれるかを調べました。
研究は2026年4月21日付で『Journal of Applied Physics』に掲載されています。
目次
- 「漢字」から丈夫な設計を学ぶ
- 「天」が強い理由
「漢字」から丈夫な設計を学ぶ
今回の研究の背景にあるのは、「メタマテリアル」と呼ばれる材料です。
これは、材料の成分ではなく内部の構造を人為的に設計することで、通常の材料では得られないような強さや変形の性質を生み出す人工材料を指します。
たとえば蜂の巣のようなハニカム構造が軽くて丈夫なのは、材料の成分だけでなく、その形のおかげです。
研究チームはここからさらに発想を広げ、折り紙やイスラム幾何学模様のように、文化的な形そのものが新しい構造設計の手がかりになるのではないかと考えました。
そこで注目されたのが漢字です。
漢字は複数の線でできており、それらが正方形の中に収まるよう整理されています。
縦線、横線、交差、離れた余白といった特徴は、構造体の力の流れを考えるうえでも手がかりになります。
研究では、学習用の初歩的な漢字の中から、単純で一体化した形を持つ文字として「人」「大」「天」「夫」が選ばれました。
いずれも似た骨格を持ちながら、横線の数や長さ、位置が少しずつ異なっています。

研究者たちは、これらの漢字をもとにしたユニットセルをコンピューター上で設計し、それを5×5に並べた構造体を3Dプリンターで作製。
さらに、比較用として一般的なハニカム構造も用意しました。
完成した試料には上から圧縮を加え、どれだけ変形するか、どの程度の荷重に耐えられるかを調べています。
その結果、細く広がる部分を持つ構造は曲げ変形しやすく、横線を持つ構造ほど力を分散しやすい傾向が見られました。
特に「天」をもとにした構造は、他の漢字ベースの構造や比較用のハニカム構造よりも高い剛性と強度を示しました。
では、なぜ「天」をもとにした構造が特に優れていたのでしょうか。より詳細な結果を次項で見ていきましょう。
「天」が強い理由
「漢字」構造の丈夫さの鍵になったのは、横方向のつながりです。
構造物に力が加わると、その力は内部を通って分散されます。
このとき、つながりが少ないと一部の細い部分に負荷が集中しやすくなります。
逆に、横線のような部材が加わると、力を複数の経路に逃がしやすくなり、全体として壊れにくくなります。
実際に、「人」をもとにした構造では細い脚のような部分が曲がりやすく、剛性や強度が高くなりにくい傾向が見られました。
一方で「大」や「天」では横線が加わることで構造全体の支え合いが強まり、特に「天」は最も高いヤング率(変形しにくさ)と最大応力を示しました。
論文では、「天」をもとにした構造はヤング率が約92メガパスカル、最大応力が約2.94メガパスカルに達し、比較用のハニカム構造を上回っています。
この研究から見えてくるのは、強い材料は必ずしも特別な成分から生まれるわけではなく、形の工夫によっても引き出せるということです。
そしてさらに面白いのは、そのヒントが工学の教科書だけでなく、古くから使われてきた文字の形の中にも潜んでいた点です。
今回調べられたのはごく少数の漢字にすぎず、研究者たちは今後、ほかの漢字や別の文字体系からも新しい設計の発想が得られる可能性を示しています。
文化的な形は、ただ眺めて楽しむものではなく、未来の材料設計を支える手がかりにもなりうるのです。
参考文献
What Chinese characters can tell us about designing strong materials
https://techxplore.com/news/2026-04-chinese-characters-strong-materials.html
元論文
Mechanical metamaterials built from Chinese characters
https://doi.org/10.1063/5.0304459
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

