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なぜ若手医師は「美容外科」に流れる? 医師不足で病気の診療や手術ができなくなる未来…過激な規制案も

なぜ若手医師は「美容外科」に流れる? 医師不足で病気の診療や手術ができなくなる未来…過激な規制案も

近年、日本における医師不足が問題となっているが、医師不足には大きく分けて「医師の絶対数不足」と「医師の偏在」の2つある。2010年代以降、医学部を卒業し、初期臨床研修を終えた若手医師が専門研修に進まず、美容外科をはじめとする自由診療に集中する「直美」と呼ばれる行為が増加している。内科や小児科など、保険診療を主体とする診療科には進みたがらない傾向が加速する背景には何があるのか。

『AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

深刻化する医師の不足と偏在

AIを医療に導入することのメリットだと信じられていることのひとつに、「医師不足の解消」があります。

経済協力開発機構(OECD)によると、2021年のOECD加盟国の人口1000人あたりの平均医師数は3.7人であるのに対して、日本は2.6人となっています*1。医療制度は国によって異なるので単純な比較はできませんが、日本では医師の絶対数がほかの先進国に比べて不足気味であることは、データ上にも表れています。

ただ、日本で医師不足が叫ばれるときに問題とされるのは、絶対数の不足だけではありません。医師が都市部に多く、地方には不足している地域格差、さらに若い医師が志望する診療科が一部の科に集中することによって生じる、相対的な医師不足の問題も指摘されています。

厚生労働省が公表した2022年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、日本の医師数は1982年に約17万人だったのが2022年には約34万人と倍増し、人口10万人あたりの医師数も141.5人から274.7人に増えています。

しかし、人口10万人あたりの医師数を都道府県別に見ていくと、医師は大都市と西日本に集中する傾向があり、最も多い徳島県(335.7人)と最も少ない埼玉県(180.2人)には1.9倍の格差がありました。

さらに細かく見ていくと、たとえば北海道全体では254人である一方、札幌市では337.9人、愛知県全体では234.7人である一方、名古屋市では325.2人であるなど、人口20 万人以上の中核市で医師数が多い傾向がわかります*2

AI医療が本格導入されれば、医師が不足している地域でも自動問診を通じて患者さんを診察できるようになります。また、患者さんから離れた場所にいる医師がロボットを操作して手術を行う遠隔手術も実現が近づいています。

2021年2月から3月にかけて、約150キロ離れた青森県の弘前大学医学部附属病院とむつ総合病院の間で行われた実証実験では、驚くほどスムーズに操作できたといいます。

将来的には、離島などの遠隔地に住む患者さんが、東京など大都市にいる外科医の手術を受けることは普通になるでしょう。AIやICT(情報通信技術)の進歩は、医療サービスの地域的な偏りをなくすことには間違いなく寄与するはずです。

美容外科への人材流出=「直美」問題

もっとも、こうした地域格差以上に厚生労働省が現在危惧しているのは、診療科による偏在です。2010年代以降、医学部を卒業し、初期臨床研修を終えた若手医師が専門研修に進まずに、美容外科をはじめとする自由診療に集中(「直美」といわれます)する一方、内科や小児科など、保険診療を主体とする診療科には進みたがらない傾向が加速したのです。

日本医師会の関連組織「日本医師会総合政策研究機構」が2022年5月に公表したレポートには、すでに次のようなことが書かれています。

美容外科は、絶対数としては少ないが、最近の増加が顕著である。過去には、若手医師が主たる診療科として美容外科を選択することはほとんどなかったが、2020年は診療所の若手医師(35歳未満)1602人のうち、美容外科が245人である。

(中略)東京都区部一極集中で、皮膚科、美容外科の医師が増えた。診療所若手医師のうち美容外科の医師は15.2%を占める。

(中略)現状は、いくら医師養成数を増やしても、保険診療ではなく自由診療を主とする診療科への医師の流出が避けられない状態にある*3

美容外科志向の高まりは、単に流行や若手医師の志向変化といった表層的な現象にとどまりません。そこには、日本の医療資源配分そのものが抱える構造的な歪みが透けています。

診療報酬制度や、保険診療と自由診療の収益格差、都市集中型の開業環境、そして診療科間の労働負荷の偏り。これらが複合的に作用し、社会的に必要な分野から人材を吸い上げてしまう。「直美」問題は、その象徴的な事例であり、今後の外科医不足や診療科間のバランス崩壊といった、より深刻かつ長期的な課題へと直結しているのです。

たとえば外科医不足について、朝日新聞の報道によれば、2040年にはがん手術を担う消化器外科医が約5200人不足し、現在提供されているがん医療は維持できなくなる恐れが指摘されています*4

また、日本外科学会によると、若手外科専攻医の割合は2018年度の約9.6%から2025年度には8.8%へ低下していて、若手の外科離れが進んでいます*5

NHKの番組でも、外科医の長時間労働や過酷な勤務環境に対する敬遠から、地方の基幹病院では手術枠削減を余儀なくされる事例が紹介され、構造的な担い手不足が全国的に進行している現状が浮き彫りになりました。

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