
平成初期を時代背景に寂れたテーマパークで女性の身に起こる恐怖をファウンドフッテージスタイルで描く本作。その最大の特徴は、当時のホームビデオの雰囲気を緻密に再現したアナクロな映像だが、驚くべきことに手掛けている西井紘輝監督は1994年生まれ。監督だけでなく、脚本、編集、出演までこなす西井監督とはいったい、何者…?
■いまの出来事を“あの頃の世界観”で見せるYouTubeチャンネルが話題に
1994年生まれの西井監督は、テレビ番組制作会社のテレビ朝日映像に所属するかたわら、登録者数43.7万人(2026年4月9日現在)を超えるYouTubeチャンネル「フィルムエストTV」を主宰し、“にしい”名義で80〜90年代風の映像を作っているクリエイター。

関西大学時代の2014年からYouTubeチャンネルを立ち上げると、新型コロナウイルスの流行やテレワークといった現代の出来事を昭和風に切り取った映像や昔のテレビ番組やCMを真似たモキュメンタリーテイストの作品を配信。存在しない過去にタイムスリップしたかのような独特の映像には「昔、この番組を見たことがある!」というコメントが寄せられるなど、ネットを中心に話題を集めてきた。
■友近とコラボした会心の1作が大きな話題に
ざらついた映像の質感やすべて自分の手で書いているというテロップの文字など、リアルタイムで昭和の時代を過ごしていないとは思えないほどの時代への高い理解度を持ち、昭和の特有のゆるさやユーモアを愛でるような遊び心のある作品を作りだしてきた西井監督。

そのなかでも大きな注目を集めたのが、友近を主演に“あの頃”っぽい2時間サスペンスドラマを撮るという企画で作られたYouTubeドラマ「友近サスペンス劇場『外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』」だ。
内容は、友近演じる月刊誌の記者と芝大輔(モグライダー)演じるカメラマンが、取材先の愛媛県道後温泉で起こった殺人事件を解決していくというもの。“事件を一旦整理する”、“最後は崖”などサスペンスドラマのお約束を盛り込んだストーリーやブラウン管時代を彷彿とさせる画質はもちろん、合間に流れる企業CMやテーマ曲まで、すべて一から作り上げられた1時間半にもおよぶ大作だ。
1年間、仕事を休職して挑み、大真面目にサスペンスドラマをパロった会心の1作は、481万回再生(2026年4月9日現在)を数えるなど大バズり。さらに、第15回ロケーションジャパン大賞で審査員特別賞を受賞し、BSテレビ朝日でテレビ放送されるなど大きな反響を呼んだ。

なお、その第2弾として石川県を舞台にした「友近サスペンス劇場Ⅱ・寝台特急『はつゆき』殺人事件」も2026年夏の配信を予定しており、再び脚光を浴びることになりそうだ。
■平成初期風ホームビデオが恐怖を生みだす最新作も公開
その後も1987〜2004年に放送されていたという設定の架空の刑事ドラマ「人情刑事 呉村安太郎」シリーズなど、精力的な活動を展開してきた西井監督の最新作が、4月24日(金)から公開される『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』だ。

1993年、人々が相次いで失踪している謎多きテーマパーク“ガマランド”に足を運んだ美由紀(中原つばさ)と浩平(にしい)のカップルは、“楽しめない人は出られない”というガマランドで、不可解な出来事に見舞われていく…。

カップルが撮影したホームビデオの映像素材から恐怖を追体験していくファウンドフッテージスタイルとなっており、VHSの粒子感や揺らぎ、“再生”、“標準”といったビデオ画面の標記をはじめ、キャラクターのメイクや髪型、浩平の部屋にあるラジカセやCABINのゴミ箱といった細かな美術まで、徹底的な時代考証で平成初期を再現。

劇中のテレビから流れてくるワイドショー番組や車内で美由紀と浩平が歌う「あのね、笑って」といった曲まで、絶妙にありそうなラインを見極めた作り込みはまさに職人技だ。

そんな平成初期チックな映像に目を奪われるが、同時に不穏な雰囲気が醸しだすじわじわとした恐怖表現は純粋にホラーとしても見応えがある。さりげなく散りばめられた違和感が回収されていく展開も鮮やかで、繰り返し観たくなる中毒性を孕んでいる。

現代を昭和風の映像で再解釈するというユニークな目の付けどころに加え、昭和カルチャーへのリスペクトや研究熱心さを武器に、唯一無二の世界観を生みだし続けている西井紘輝監督。『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』ではそんな彼の魅力と確かな手腕を存分に堪能できるはずだ。
文/サンクレイオ翼
