
北欧伝承などに登場する海の怪物・クラーケン。
それは船を沈めるほど巨大なタコまたはイカの姿で描かれますが、実はこのイメージ、完全な空想ではなかったかもしれません。
北海道大学を中心とした国際研究チームはこのほど、白亜紀後期(約1億~7200万年前)のタコの化石を解析。
その結果、最大全長19メートルにも達する巨大なタコが、海の頂点捕食者として実在していたことを明らかにしたのです。
研究の詳細は2026年4月24日付で学術誌『Science』に掲載されています。
目次
- 明らかになったクラーケン級のタコ
- 巨大で、しかも「賢い」頂点捕食者だった
明らかになったクラーケン級のタコ
タコといえば、柔らかい体を持つ無脊椎動物です。
そのため死後はすぐに分解され、化石として残ることはほとんどありません。
では、どうやって古代のタコの姿が分かったのでしょうか。
今回の研究の鍵となったのは、タコが持つ「顎(アゴ)」です。
タコのアゴは硬く、獲物を噛み砕くために発達しているため、例外的に化石として残りやすい部分です。
そこで研究チームは、白亜紀後期のタコのアゴ化石27点を対象に解析を行いました。
そのうち12点は、「デジタル化石マイニング」と呼ばれる手法によって新たに発見されたものです。
これは岩石を薄く削りながら内部を撮影し、AIで化石構造を復元する技術で、これまで見えなかった微細な痕跡を可視化できます。
【研究チームによる巨大タコの復元イメージがこちら】
さらに研究者たちは、現生のタコ12種のデータをもとに、「アゴのサイズから体長を推定する式」を作成。
これにより、化石から全身の大きさを高精度で復元することが可能になったのです。
その結果、白亜紀のタコには少なくとも2種が存在し、より新しい種では全長7~19メートルに達したと推定されました。
これは現生のダイオウイカ(約12メートル)を上回り、当時の海の支配者であったモササウルス(約17メートル)にも匹敵するサイズです。
つまり、タコは単なる「柔らかい小型生物」ではなく、当時の海で最大級の存在だった可能性があるのです。
巨大で、しかも「賢い」頂点捕食者だった
しかし、この研究の本当の驚きは「大きさ」だけではありません。
化石の表面に残された痕跡が、彼らの生態を雄弁に物語っていました。
アゴには、欠けやヒビ、擦り減りといった激しい摩耗が見られ、その損失は全体の約10%にも達していました。
これは貝やアンモナイト、魚など、硬い殻や骨を持つ獲物を繰り返し噛み砕いていた証拠と考えられます。
つまり彼らは、単なる巨大生物ではなく、強力な咬合力を持つ獰猛な捕食者だったのです。
さらに興味深いのは、アゴの摩耗の具合が左右で大きく異なっていた点です。
これは「利き手」に相当する側性(ラテラリティ)の存在を示唆します。
現代の動物では、このような左右の使い分けは、脳の発達や高度な認知能力と関連しています。
実際、現生のタコは無脊椎動物の中でも特に知能が高いことで知られています。
今回の結果は、1億年前の時点ですでに、タコが高度な知性を持っていた可能性を示しています。
なぜタコは“最強”になれたのか?
この研究は、単なる「巨大タコの発見」にとどまりません。
むしろ重要なのは、「なぜ頂点捕食者になれたのか」という進化の仕組みです。
研究者たちは、タコと海生の脊椎動物に共通する進化の特徴に注目しています。
それは、
・強靭なアゴを持つこと
・体表を覆う硬い殻や骨を失っていること
という2点です。
一見すると、防御を捨てることは不利に思えます。
しかしその代わりに、体は軽く柔軟になり、遊泳能力が大きく向上します。
その結果、より速く動き、より大きく成長することが可能になります。
実際、サメやモササウルスなどの脊椎動物も、進化の過程で装甲を減らし、流線型の体を獲得してきました。
そしてタコもまた、外殻を失うことで同じ方向へ進化したのです。
つまり、白亜紀の海では、脊椎動物とタコ(無脊椎動物)という異なるグループが、同じ“頂点捕食者”という地位をめぐって進化していた可能性があるのです。
柔らかい体を持ち、どこか愛嬌さえ感じられるタコ。
そんな現代のタコのイメージからは想像もつかない姿が、1億年前の海には存在していました。
巨大で、強く、そして賢い捕食者として君臨していたタコたち。
その姿はまさに「実在するクラーケン」と呼ぶにふさわしいものです。
私たちが知っている海の歴史は、まだほんの一部にすぎないのかもしれません。
参考文献
最古のタコは巨大な頂点捕食者だった~捕食の痕跡とAIが解読する古代海洋の捕食関係~
https://www.hokudai.ac.jp/news/2026/04/ai-9.html
Giant, Kraken-Like Octopuses Once Stalked Their Prey in Cretaceous Seas
https://www.sciencealert.com/giant-kraken-like-octopuses-once-stalked-their-prey-in-cretaceous-seas
元論文
Earliest octopuses were giant top predators in Cretaceous oceans
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aea6285
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

