やりたいことはやりつくしているようにも映る。
世界中の子どもたちが夢を抱くきっかけとなりたいからとプロラグビー選手になった山田章仁は、2015年に日本代表としてワールドカップイングランド大会に出場。初戦では当時優勝2度(計4度)の南アフリカ代表を下してラグビーブームを巻き起こし、サモア代表との3戦目ではゴールラインの手前で回転して相手をかわす「忍者トライ」を刻んだ。
歴史的3勝を挙げたこの戦いを前後して、現埼玉パナソニックワイルドナイツの一員として旧トップリーグを4度も制し、全部で10個の個人タイトルも獲得。アメリカンフットボール挑戦や複数のテレビ出演でも話題を作った。
さらにさかのぼって2000年代前半の学生時代には、単身でのオーストラリア留学を2度。代表デビュー後には同国のウェスタン・フォースと契約して国際リーグのスーパーラグビーへ挑んだり、その舞台に日本から参戦するサンウルブズで大いに爪痕を残したり。フランスやアメリカでもプレー経験がある。
地球のあちこちでマイルストーンを積み上げ、現在40歳。同世代や後輩が次々と引退を選択するなか、ずっと変わらずに現役生活をエンジョイする。満腹感はない。
いまいるリーグワン2部の九州電力キューデンヴォルテクスでリーグ戦通算最多トライ記録の更新にあと2と迫っているが、戦う動機はレコードの達成のみにとどまらない。
平日にチームメイトと息を合わせ、週末のゲームで腕を試すという日常そのものに価値を見出す。
「日本一になりたいという思いはあるんです。今年もこのチームで毎週勝ちたい。でも、それがゴールになっちゃうと、どこかでつまらなくなるのかもしれないです。ただ、新しい仲間と出会える、もっと言えば新しい自分に出会えることが楽しみ。だから、人生でこのサイクルはできるだけ続けたい。1回しかない人生。折角、(長く)頑張ったから」
振り返れば、少年時代に出会った上手な選手が両親の助言で競技を離れたことがあった。プロになってからも怪我で辞めた後輩を見てきた。
さりとて己は誰にも進路を止められず、計画的なコンディショニングのおかげでいまなお身体が動く。活躍の場が与えられる。その幸せをかみしめるのは自然だ。
最近では、対戦相手の選手に「小さい頃、見ていました」と言われることがある。「僕、(会社員として)働いたことはないですけど」と前置きして述べる。
「大きな契約を取ってきた営業マンがいて、その様子を小学生が見ることはない。万が一それを見て同じ会社に入っても、その方はもっと偉くなっていて一緒に働けることはない。その点、僕には皆とラグビーをする楽しみがある。極力、長くやりたいです」
4児の父である。我が子には、スポーツを続ける意義を具体的な行動を通して伝える。
「家にチームメイトを呼ぶ。これはスポーツをやっていると友達ができるんだよと伝えたいから。外で(選手だけで)ご飯を食べてしまうとこれがなかなか伝わらない。『どこに友達がいるの?』と聞かれて『試合や練習に…』というのではなく、(自宅で)友達というカテゴリーでワイワイガヤガヤしている姿を見せたい。それは向こう(来客)にも理解してもらっています」
ここから展開するのは、国際人としての子育て論である。
家族で様々な場所を滞在した思い出について話し合う時には「東京なら(日本ではなく)東京、パリなら(フランスではなく)パリ」といった風に、国単位ではなく都市単位で振り返る。国境というボーダーラインを過剰に意識しない感覚を身につけてもらうためだ。
「言葉はどこからでも勉強すれば喋れるとは思うのですけど、こういうボーダレス感は(幼少期からの心がけ次第)。…ちゃんと(考えて)やっているでしょ?」
いまのヴォルテクスでプレーするのは、24日金曜夜の第12節を含めあと3試合となった。契約社会の住人らしく今後の去就については「未定」とするが、フィールドに立ち続けることは約束できそうだ。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
【PHOTO】世界に名を馳せるラグビー界のトッププレーヤー30選!
【画像】世界の強豪国と激突する「エディージャパン」の注目メンバー5選!
【動画】ワラビーズをあと一歩まで追い詰めるも…豪州代表戦ハイライト

