「マジで殺すよ。本当に」
蜜月関係にあった3者の関係は、突如として破綻する。
2024年8月30日。寄付講座の開設によって、化粧品などの商品による収益が上がらないことに激昂した佐藤元教授が、会食の席で引地被告に牙を剥いた。吉崎被告はこの不穏な空気を感じ取り、自らのスマートフォンで録音を開始していた。
法廷で読み上げられた反訳書(録音を文字に起こしたもの)の一部には、最高学府の教授とは思えぬ佐藤被告の言葉が刻まれていた。
「早く利益出せよ。マジで。化粧品が売れなかったらあんた金持って来い」
「この講座の人事権と経営権は僕が決める。約束不履行が続くなら講座は終わりですよ」
そして、決定的な一言が放たれた。「マジで殺すよ。本当に」。
吉崎被告は、この録音について「まさか『殺すぞ』とまで言うとは思わなかった」と振り返ったが、この決別が、引地被告による警察への被害相談、ひいては汚職事件の発覚へとつながった。
情状証人として出廷した、吉崎被告の共同研究者で世界的な科学者である北森武彦氏は、被告の能力を評価しつつも、その危うさを指摘した。
「吉崎氏は非常に優れた研究者・医師だが、場当たり的な判断をして、批判的視点を失いがちな面がある。あっちの顔も立て、こっちの顔も立てているうちに、ルールから外れる誤った判断に陥ったのではないか」
吉崎被告は現在、無職の身だという。被告人質問では、自らの過ちを償うため、日弁連などが運営する法律援助事業基金に対し「100万円を贖罪(しょくざい)寄付した」ことを明かした。
「佐藤先生に嫌われてしまえば東京大学に私の居場所はなくなってしまう」
一方で、検察官から「佐藤元教授の指示なら何でもやるのか」と問われた吉崎被告は、次のように語った。
「言われたら何でもやる、というつもりは決してございません。佐藤先生のおっしゃることがすべてだと思っていたわけでもありません。ただ、それを止められなかった自分自身の非を詫びております。
私は長崎大学の出身で、当時、佐藤先生は同大学皮膚科の教授でした。そこからずっと先生についていく形で東京大学まで参りました。私にとって佐藤先生の言葉は、それほど大きな意味を持つものだったのです」
しかし、検察側は「本件講座の別の男性研究員は、佐藤元教授からソープランドに誘われた際、断っている」と指摘。「佐藤元教授の言うことは絶対ではないはずだ」と追及した。
吉崎被告は、「なかなかご理解いただくのが難しいかもしれません」とし、苦悶の表情を浮かべながらこう答えた。
「もし私が先生に嫌われてしまえば、東京大学に私の居場所はなくなってしまいます。私は長崎の医局とも半ば縁を切るような形で東大に来ており、ここで見捨てられれば、今後どうやって身を立てればいいのか分からなくなっていました。
今にして思えば、東大という組織に属さずとも、医師の本分である『患者を診る』ことはどこでもできたはず。そんな当たり前のことすら分からなかった自分の未熟さを恥じています。それほど当時は、先生の言葉をそれほど絶対的なものとして認識していたのです」
検察側は最後に、「佐藤元教授が欠席した際も単独で接待を受け、『羽目を外してはしゃいだ』と認めており、主体的に犯行に及んだのは明らか」と厳しく断罪。懲役1年2月、追徴金約196万円を求刑した。
対する弁護側は、教授という絶対的権力者に逆らえない「受容型」の事案であるとし、週刊誌報道などで社会的制裁をすでに受けているとして執行猶予付きの判決を求めた。
吉崎被告は最後に「信頼を裏切ってしまった皆様に、深くお詫び申し上げたい。本当に申し訳ございませんでした」と述べ、法廷を後にした。
判決は5月22日に言い渡される。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

