
ところで、スタンダップコメディってそもそもどんなもの?と思った人もいるのでは。うっすらと“お笑い”と理解はしていても、アメリカンカルチャーやお笑い文化に強い興味がある方を除けば、少々わかりにくいかもしれない。そこで、このスタンダップコメディについて改めて解説。『これって生きてる?』をより楽しむためにも、復習しておこう。
■自分語りで観客を笑わせるスタンダップコメディ
そもそもスタンダップコメディは、アメリカのお笑い芸における基本中の基本。ステージに立ってマイクに向かい、目の前の客を笑わせる。これだけだと、日本のピン芸人による漫談と変わらないと思われるだろう。しかしネタ主体の日本のお笑いと異なり、スタンダップには自分語りという特性がある。出自や家庭環境、仕事、遊びなどなど自身の境遇を語りつつジョークを膨らませる。

また、相手はあくまで目の前の観衆のみだから客イジリはあるし、性的なジョークも政治風刺も社会批判も笑いのネタにする。テレビのお笑い番組とは異なり、発言の自由が認められている場でもあるのだ。

■『ジョーカー』『パンチライン』『レニー・ブルース』でも描かれたスタンダップコメディ
スタンダップコメディは米国人の生活に根差しており、これを扱った映画も少なくない。最近のヒット作では、『ジョーカー』(19)の主人公アーサー(ホアキン・フェニックス)がその舞台に立っていたことを記憶している人も多いのでは。

また、トム・ハンクス主演の『パンチライン』(88)は、まさにその世界そのものを描いた秀作。ちなみに“パンチライン”とはネタにおけるオチやキメのセリフを意味する。ダスティン・ホフマン主演の『レニー・ブルース』(74)もまた、タブー無視の過激発言で名を馳せた実在のスタンダップコメディアンを主人公にしており、こちらも映画ファンなら観ておきたい逸品。ほかにもスタンダップを題材にした映画には、『ディス・イズ・マイライフ』(92)、『素敵な人生の終り方』(09)などがある。

■ロビン・ウィリアムズ、ケヴィン・ハートらを輩出した実在のクラブが舞台に
『これって生きてる?』の主要舞台となるクラブ「コメディ・セラー」は、ニューヨークのグリニッチヴィレッジに実在するスタンダップコメディの殿堂というべきバー。ここで場数を踏んだコメディアンは枚挙に暇がなく、ロビン・ウィリアムズ、ケヴィン・ハート、クリス・ロックといった大物コメディ俳優たちは、ここで若き日を過ごして芸を磨いていった。ついでに、コメディ・セラー以外のスタンダップコメディアン出身の俳優も挙げると、エディ・マーフィやジム・キャリー、ジョン・ムレイニーといった大物たちもキャリア初期にこの分野で名を上げている。

このコメディ・セラーの上階にある「オリーブ・ツリー・カフェ」も同様に実在のレストランで、出番を終えたコメディアンたちの憩いの場となっている。劇中ではアレックスがコメディアン仲間と共にジョーク交じりの会話を繰り広げているが、そういう意味では最先端の笑いのネタが生まれる場所と言えなくもない!?ちなみに、『これって生きてる?』プレミア上映後のパーティーもここで行なわれた。そういう意味では、まさに本作の聖地でもあるのだ。

■スタンダップコメディを通して生きがいを見いだしたアレックスの人生はいかに?
先にも述べたように、スタンダップコメディは自分語りの要素を含んでいる。主人公アレックスも初めて舞台に上がった時、離婚寸前の妻との関係を語りながら笑いに転化させるが、それは一方でセラピーのようでもある。生きることは時につらいし、苦しい。しかし、笑いはそれを克服し、人生を豊かにしてくれる手段でもある。これを踏まえながら観れば、本作はより味わい深いものとなるに違いない。

文/相馬学
