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「え?高額療養費制度ってもう不妊治療に使えないの?」高市政権が通過させてしまった高額療養費制度改悪問題を考察する

「え?高額療養費制度ってもう不妊治療に使えないの?」高市政権が通過させてしまった高額療養費制度改悪問題を考察する

医療費が高額になった場合、自己負担額を一定に抑える「高額療養費制度」。2024年末に政府・厚労省によって見直し案が出されると、尋常ではない支払い上限額の引き上げなどが波紋を呼んだ。疾患当事者や研究者をはじめとして、多くの批判を浴びた2024年度見直し案は、土壇場で一時凍結されることとなったが、今年の8月からは2025年度見直し案での運用が始まる。
この一連の出来事を受けて日本の現行医療保険制度の問題点を多角的に検証したのが、自身が高額療養費制度利用の当事者でもある西村章氏だ。産婦人科医でこの見直し問題についてSNS等でも積極的な発信をしている宋美玄氏と西村氏に、医療保険制度のあり方について語り合ってもらった。

石破は止めたが、高市は改悪を押し進めた 

西村 この対談をしている時点でも参議院で予算案の審議が続いています。配信時には高額療養費制度〈見直し〉案がはたしてどうなっているのか。まずはそこが非常に気がかりですよね(本対談は2026年3月25日に収録)。

 石破さんは一時凍結してくれたんですが、高市さんは止めてくれないのかな……。どうなんでしょう?

西村 政府が〈見直し〉案を進めたがる理由はいろいろあると思うんですけれども、ひとつは書籍『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』の中でも説明をした「改革工程」の一環だから、ということが大きそうですよね。

実際に、高市内閣発足後の11月17日に発出した内閣総理大臣指示『社会保障改革の推進について』の中でも、「高額療養費制度の見直しをはじめとする全世代型社会保障構築のための『改革工程』に掲げられた医療・介護保険制度改革の着実な実現に向けた議論を進めてください」とすでに明記しているんですよ。

自民党総裁選の時に高市さんは、5人の候補者の中で唯一、高額療養費制度の自己負担上限額を引き上げに反対、と言っていたので、そこに若干の期待もあったと思うんですけれども、実際に内閣が発足してみるとこのような内閣総理大臣指示を出しているし、その少し前に行われた11月上旬の臨時国会でも、「高額療養費の引き上げはしないですね」という野党からの質問に対して曖昧な返答をする一方で、彼女自身も難病に罹患している当事者として「この制度を利用している人々や長期の疾患で治療している人の苦しさはよくわかっているつもりです」みたいなことも言っていたんですよね。

でも、12月末の予算案で引き上げを提示して、その後、衆議院選で圧勝した流れでこのまま押し切れると考えているのだろうと思います。

 それでいったい誰が得をするんだろう、と思うんですよ。だって、医療費も社会保険料もたいして削減できるわけじゃないのに、そこまで強引に進めたところで、結局は現役世代で運悪く高額医療が必要な病気になった人や、あとで詳しく説明しますけども不妊治療が必要な人たちに皺寄せが行くだけでしょ? 私は小さなクリニックを経営しているんですけれども、結局、困るのは中小企業の協会けんぽ加入者や国保の人という……。

付加給付(高額療養費が適用される治療を受けた被保険者に、さらに給付を行って負担を軽くする健保組合や共済組合の制度)のことも、あまり論じられていないですよね? 高額療養費制度だけでも「何それ?」みたいな状態で制度に詳しくない人が多いのに、さらに付加給付がある人とない人がいる、というところまではなかなか理解が進んでいないように思います。

西村 そういう制度があって当たり前、という世界に住んでいる人もいれば、僕もそうですけれども「何それ? そんなものがあるの?」という世界に住んでいる人もいる。誰しも自分が加入している健康保険のことしかわからないから、そこのギャップ、認識差は大きいですよね。しかも、付加給付のことを語る以前に高額療養費の自己負担上限額引き上げの説明だけですでにおなかいっぱいになってしまい、この問題がどれくらい現役世代に直撃するのか、ということが直感的に理解できない。

そもそもものすごく複雑な制度なので、自分自身が当事者になるまではピンと来ないだろうし、そんな人たちにとっては、去年、一時凍結になったことだって遠い世界の話なのだろう、と思います。

 全国がん患者団体連合会(全がん連)の天野慎介さんたちが頑張ってくださったおかげで去年は一時凍結されて、今回も年間上限額などが導入されましたけれども、いろんな疾患や治療に利用される制度なのに、一般的には「歳をとって運悪くガンにかかった人が大変になるのかな?」みたいなイメージを持っている人も多いと思います。

でも、たとえば女性がかかるがんって、年齢が若いんですよ。年間10万人くらいが罹患する乳がんの場合だと、40~50歳代がすごく多いんです。子宮頸がんはもっと若い。だから、現役世代のど真ん中ですよね。子宮体がんや卵巣がんの場合は50歳前後、卵巣がんだと60代くらいが多いので、そんなに高齢じゃない時期に罹患するがんがすごく多いんですよ。

西村 ひと昔前のイメージだと、がん治療は手術で患部を切除して、その後しばらく療養、というものだったかもしれませんが、今はだいぶそのあたりのアプローチも変わってきているようで、予後の再発防止や寛解を維持するために長期にわたって薬を服用し続ける治療が続くわけですよね。

加入する健康保険による「格差」とは

 そうですね。私は今50歳ですが、この数年、友達が続々と乳がんにかかっていて、手術や抗がん剤治療の後に数年間継続して非常に高価な薬を飲み続けなければなりません。だから、治療自体も大変ですが、医療費でも苦労をすることになります。

ある友人の場合は大きい会社の健保組合で付加給付もあったのでかなり助かったようですけれども、もしも高額な支払いが延々と続けば途中で治療を諦めてしまう人も出てくるかもしれません。

西村 付加給付といえば偶然なんですけれども、僕の妻が今月上旬に10日間ほど入院して手術をしたんですね。2月28日に入院して3月2日が手術、退院は9日だったので、3月分は高額療養費制度が適用されて自己負担が約8万円。2月は月が違うので1日分の費用を支払って、合計で10万円少々。僕は国保ですけれども彼女は企業の健保組合で付加給付もあるので、本人負担分は結局2万円になったんですよ。さらに、入院中と退院後の自宅静養期間も、休職中は健保組合から傷病手当金が支給される。

もしも僕が同じ病気で入院したとすると、国保は付加給付がないので自己負担の約8万円は全額支払わなければならない。しかも、傷病手当金もないから、仕事を休んでいる期間はただ収入がない期間が続くだけ、という状況になります。

 それって、大きい健保組合だから手厚い付加給付があって、傷病手当金も支給される、ということですよね。たとえばIT業界などは人口構成が若くて医療費を使わない人も多いから、健保の経営も比較的健全だし、病気に罹らないための予防医療などで医療費を減らす取り組みのモチベーションも上がりやすい、という話を聞いたことがあります。

そうすると、構成員が若くて伸びている業界や組織の健保は傷病手当や付加給付が手厚くて、一方ではそのような手当が何もない中小企業の協会けんぽや、個人事業主とかフリーランスの加入する国保との格差がどんどん大きくなる。

官僚の人は付加給付があるじゃないか、ということもよく指摘されます。でも、官僚だって天下りしたらどうなるかわからない。引退後も一定期間は保険の任意継続をできるようですが、それも2年程度ですよね。

西村 健保組合の付加給付は、企業や組織が自分たちの医療保険制度を手厚くしようと努力して頑張っている仕組みだけど、官僚の場合は給料から天引きの保険料が原資とはいえ、その給料の原資は税金なのになぜ付加給付があるのか。

 そこの不公平感はよく指摘されることですよね。官僚の人たちは高給ではないので、そういう制度があっても別にいいとは思うけど、そういう制度に恵まれていて痛みのわからない人たちによって決められてしまうのはおかしいよなぁ、とすごく思います。

西村 完全に他人事として扱っているような印象がありますよね。

 そもそも保険料を払う時点で、給料の高い人はたくさん払っているじゃないですか。でも、高額療養費は前年度の所得で区分が決まるから、病気で働けなくなったりして年収が減っても区分は前年度のままで、さらに高額な支払いがのしかかってくる。

しかも、本の中で説明されているように、転職すると多数回該当はリセットになるので、がんなどの病気になったり、不妊治療をして働き方を変えたりして年収が下がってしまう場合の想定はしていないですよね。高額療養費制度は非常に大切なセーフティネットなのに、まずそこに手をつけようとするのは、やっぱりどう考えてもおかしい。

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