
左SBできるか? 松木玖生は即答「できます」。プレミア昇格を目ざすサウサンプトンで今や重要戦力に。日本代表入りも視野「したたかに狙いながらやっていきたい」【現地発】
「何かしてやろうと思ってました――」
そう振り返ったサウサンプトンの松木玖生の言葉には、“サッカーの聖地”ウェンブリースタジアムの舞台で突然訪れた出番にも、決してひるまない強い気持ちがにじんでいた。
現地4月25日にウェンブリースタジアムで行なわれたFAカップ準決勝のサウサンプトン対マンチェスター・シティ戦。松木は、76分からピッチに立った。ただし、与えられた役割は本人が想定していたものとは違っていた。
「右ウイングで出ると思ってたんですけど、監督から急に言われて。でも冷静でしたね、自分の中で」
本来は、4-2-3-1の右ウイングとしての出場を考えていた。だが、左サイドバックの選手が足を痛めたことで、ベンチの状況は一変する。監督から投げかけられたのは、「左サイドバックできるか?」という問いだった。
松木は迷わず答えた。「できます」と。
「自分も年代別で若い時にやってたんで、それで『できます』と言って、試合に出たって感じです」
松木の本職はセントラルMF。自身のキャリアを振り返っても、左SBで最後にプレーしたのは13、14歳の頃だったという。サウサンプトンのトレーニングでも一度もやったことはない。それでも、ピッチへ向かう足取りに迷いはなかった。
もちろん、簡単な状況ではない。相手はプレミアリーグの強豪シティ。対峙する右サイドにはブラジル人のサビーニョが立ち、逆サイドからはベルギー代表のジェレミー・ドクが仕掛ける。さらには、中央のCFにはノルウェー代表の巨漢FWアーリング・ハーランドが控える。慣れないポジションで、松木は世界屈指のタレントたちを相手にすることになった。
それでも松木は、ただ急場をしのぐために入ったわけではなかった。
「何かしてやろうと思ってましたし、自分が出て、チームに勢いを与えようっていう風には思っていた」
その気持ちは、投入から間もなくプレーに表われた。
左サイドで味方がボールを持つと、松木は一気にスピードを上げた。外ではなく内側へ。自陣から約60メートルの長い距離を走ってインナーラップを仕掛け、パスを引き出した。そしてゴール前へラストパスを送ると、サウサンプトンの先制点につなげた。急造の左SBとは思えない、迷いのない攻撃参加だった。
「あの時間帯で自分たちがより多くの点数を今シーズン取っている。10番のフィン・アザズ選手が凄いゴールを決めてくれた。そこで勝ち切りたかったです」
ではなぜ、あの場面であれほど思い切って前へ出られたのか。松木は、試合に入る前から相手の特徴をよく観察していたという。
「アップしながら、サビーニョ選手が守備の時にけっこう戻らないのを見ていたので。そこで、自分は一気にスピードを上げてスペースに走りこもうと思ってました」
当初は右ウイングで出る準備をしていたため、左FWのドクへの対応を考えながらアップしていたという。だが、左SBの選手が故障を抱えながらプレーしており、自分に左SBでの出場チャンスが来るかもしれない、とも考えていた。
言葉にすれば簡単に聞こえる。しかし、実際には簡単ではない。急なポジション変更、しかも相手はシティである。それでも松木は状況を受け止め、自分が何をすべきかを整理してピッチに入った。
見せ場は、アシストだけではなかった。1-1で迎えた終盤には再び攻撃参加し、CFのポストプレーから得意の左足で鋭いシュートを放った。味方と交錯しながらの難しい体勢だったが、ボールは力強く枠内へ飛んだ。相手GKに阻まれたものの、得点への意欲をはっきりと示す場面だった。
「あそこは決めたかったです」
悔しさを滲ませながらも、その一言には途中出場の選手として試合に関わるだけではなく、自分のプレーで結果を変えようとする強い気持ちがあった。
守備でも、存在感は際立っていた。
後半アディショナルタイムには、相手のカウンターからGKまでかわされる大ピンチが訪れた。ゴールが空いたかに見えた瞬間、最後方まで戻っていたのが松木だった。約100メートルを全力で走り、ゴールマウスをカバー。空いたゴールへ向かうシュートの軌道に、最後に身体を投げ出してブロックした。
投入直後のコーナーキックでも、2メートルのハーランドと身体をぶつけ合いながら守備に入った。世界最高峰のストライカーを相手にしても、松木はひるまなかった。サムライ戦士は言う。
「実際に世界最高峰の選手と対戦したことがなかったので、自分自身、良い刺激になりました。でも今後、自分も世界一のクラブで、世界一を取りたい。世界を見るにはあのような選手たちとマッチアップしないといけないなという風に思うので、良い経験になりました」
試合は、サウサンプトンが1-2で逆転負けを喫した。決勝進出は叶わなかったが、この日の松木には、今季の後半戦に入ってからの充実ぶりがそのまま表われていた。
シーズン前半は、ベンチ外が続く厳しい時期もあった。だが、そこで崩れなかった。出番を待ち、準備を重ね、後半戦から徐々に出場機会を増やしていった。国内リーグ戦では主力に定着し、プレミアリーグ昇格を目ざすサウサンプトンにとって、今や重要な戦力のひとりになっている。松木自身も、今の状態に手応えを感じている。
「自分の状態もすごく良いですし、チームも連勝は途切れてしまいましたけど、次はイプスウィッチとのすごく大事な試合があるんで、そこで自分がまた活躍できるように照準を合わせていきたい」
サウサンプトンは現在イングランド2部で5位。残り2試合の時点で、自動昇格圏となる2位とは4ポイント差にいる。次に控えるのは、その2位イプスウィッチとのホームでの直接対決だ。
自動昇格の可能性を追いながら、仮に届かなかったとしても、3位から6位までによるプレーオフが待っている。そして、その決勝の舞台は再びウェンブリースタジアムとなる。
「2位通過か、プレーオフになるか分かんないですけど、プレーオフになればまたウェンブリーの地でできる。この経験は、自分たちにとってプラスになると思います」
「(記者:サッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムでのプレーは?)すごく楽しかったです。今回、サウサンプトン・サポーターの方々が、マンチェスター・シティのファンの方々より多く来てくれたので、フィーリングも良かった。ホームの雰囲気でプレーできたので感謝しています」
そしてウェンブリーは、松木にとってもうひとつ特別な意味を持つ場所でもある。3月下旬、この同じ舞台で日本代表がイングランド代表を下した試合を、松木は見ていた。
「勝てると思ってましたし、ここ(代表)に入り込めるように自分も意識しながら見てました」
その視線の先には、日本代表とW杯がある。
「まだ少なからずチャンスはあるかもしれないので、したたかに狙いながらやっていきたいです」
プレミアリーグ昇格を目ざすサウサンプトンで結果を残すこと。その先に、日本代表という舞台を見据えること。松木の中で、その二つは切り離されていない。
まずはクラブのプレミア昇格に尽力する。そして重要な試合で結果を出す。どんなポジションでも、どんな相手でも、求められた場所で自分の価値を示す。
その積み重ねが、次のステージへとつながる。
取材・文●田嶋コウスケ
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