独自に編み出した六星占術と「大殺界」「地獄に堕ちるわよ! 」の強烈ワードで一世を風靡した占い師・細木数子。戦後の焼け野原で飢え、貧しさから脱するため高校を中退して夜の街で働き始めた細木は、若くしてナイトクラブを次々と成功させて「銀座の女王」と呼ばれるまでに登りつめる。やがて彼女は、そこで培った人身掌握術を武器に占い師として新たな道を歩き始める。だが、テレビや出版界を席巻する一方、霊感商法や裏社会とのつながりをささやかれ、黒い噂も絶えなかった――。
波乱の人生の細木数子を演じたのは、人気と実力を兼ね備えた戸田恵梨香。他に「この女の半生を小説にする」と迫る作家・魚澄美乃里を演じる伊藤沙莉をはじめ多くの実力派俳優たちが名を連ねる。瀧本智行と大庭功睦の二人が監督を務め、昭和から平成へ、激動の時代を生き抜いた一人の女の素顔に迫る。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』。今回は、Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」の瀧本智行監督に、本作品や映画・ドラマへの想いなどを伺いました。
「細木数子」という虚構にして実在
池ノ辺 私にとって細木数子さんは、ヒーローみたいな存在だったんです。彼女の人生、いろいろあったんだろうなとわかっていたんですが、ここまで壮絶とは思わなくて、かなりショックでした。ヒーロー像が崩壊したような感じですよ (笑)。
瀧本 それは、すみません (笑)。
池ノ辺 監督はなぜこのドラマに関わることになったんですか。
瀧本 そもそも僕は細木数子さんが嫌いだったんです。
池ノ辺 そうだったんですね。
瀧本 だから最初はお断りしていたんですよ。好きでもない人のドラマなんてできないよと。ドラマにしろ映画にしろ、長丁場ですから、主人公を愛せなかったらそれはちょっときついですよね。ところが「豚もおだてりゃ木に登る」じゃないですけど、プロデューサーが、「嫌いな人が撮った方がこの作品は絶対面白くなります」って言うわけです。まあ、よくある手口ですよね、それにまんまと乗せられて「そんなもんかいな」と思って引き受けることになったんです (笑)。
池ノ辺 あらあら (笑)。
瀧本 たぶん、名だたる監督たちはみんな断ったんだと思うんです。でも、誰もやりたがらないような火中の栗を拾うっていうのもまあいいかと、最初はそんな感じで始めました。
池ノ辺 細木さんを嫌いなまま始めたんですね。
瀧本 僕は校内暴力真っ只中の世代なんです。細木さんはうちの母親と同じ昭和13年生まれで、そういう親世代、あるいは権威主義的な人たちに対してはまず反発する、というのが、僕には三つ子の魂みたいに染み付いていたわけです。細木さんの最盛期でしたけど、テレビに映ったらチャンネルを変えるというくらい嫌いだったので、逆に言えば全く知らなかったんですよ、見ていなかったので。
池ノ辺 実際にドラマを撮ってみても嫌いでしたか?
瀧本 引き受けたからにはと、一から資料に目を通していきました。そこで、こういうこともあったんだ、ああいうこともあったんだと、初めて知って。嫌いな部分も含めて、細木さんというのは本当に人間的な、人間味のある人なんだというのがわかってきたんです。そこからようやく、その切り口で愛するに至る道を歩き始めた、というところでしょうか。
池ノ辺 そうすると最後には「細木さんのこの生き様は大好きだな」と思いました?
瀧本 「大好きだ」とまでは思いませんが、理解はできました。実人生においては、人間誰しも何かしらの自分の役割を演じているということはあると思うんです。でも、細木さんは「細木数子」というキャラクターを自分自身で演じていたんだと思います。彼女の本質的な部分というのもあるでしょうけど、あの威丈高な振る舞いも、演じている部分もかなりあったと思うんです。演じるのは、観客に対してであったり視聴者に対してであったり、あるいは六星占術を信じている人たちに対しても、半分くらいは演じてらっしゃったんだろうなと。僕の目にはそう映ったという僕なりの解釈なんですけど、このドラマを作るにあたっては、そういうコンセプトで組み立てていきました。
「細木数子」にしか見えなくなる女優・戸田恵梨香の強さ
池ノ辺 今回、細木数子を演じた戸田恵梨香さんとは、監督とすごく仲が良いと聞いています。
瀧本 向こうはどう思ってるかよくわかんないですけど (笑)。ただ、僕はこの作品ですごく彼女に助けられました。
池ノ辺 キャスティングが決まった頃のビジュアルだと、戸田さんがすごく痩せて綺麗で、「細木さんになれるのかな」と思ったんですが、実際見てみたら細木さんにしか見えなくなってきますね。
瀧本 細木さんって若い頃の写真をご覧になったらわかりますけど、本当にお綺麗なんですよ。どこかの映画会社のニューフェイスのブロマイド、みたいな写真もあって、真偽はやや怪しいんですが、10代の頃には「ミス渋谷」だったとご自身でもおっしゃっている。それぐらい評判の美人だったので、実は戸田さんが演じることになんらおかしなところはないんです。ただ、皆さんのイメージとしてはあの、晩年の強烈な姿でしょうか‥‥。
池ノ辺 そうなんです。どんな手を使って戸田さんを細木さんにしたんですか。
瀧本 顔からなにからフルボディメイクで、特殊メイクも、となったらほとんど着ぐるみですよね。そうじゃなくて、戸田さん自身が持っている強さの部分を意識して表に出しました。そしてこの劇中で2005年に細木さんは66歳になるんですが、実は当時彼女はエステにもきちんと行って、肌がものすごく綺麗だったんです。だから逆にしわくちゃというのも変なんですよね。それであれこれ試行錯誤して、あの姿に落ち着きました。物語を観ていけばちゃんと細木数子に見えるはずだと信じて。
池ノ辺 戸田さん自身は細木数子の役をするということについて、最初はどう思っていたんでしょうね。
瀧本 僕が引き受けた時点で戸田さんはもう決まっていたので、最初の頃、どう思っていたかはわからないです。ただ、すごく面白がってはいました。肝が据わった人なので、というより肝が据わった人じゃなければできない役だとは思いますけど、よく引き受けてくれたなとは思いました。
池ノ辺 戸田さんの新たな一面を見たような気がしました。
瀧本 僕は、彼女と仕事をするのは初めてだったんですけど、もともと肝の据わった女優さんだなとは思っていました。今回、半年間一緒にいて撮影してみたら、まあ大したもんだなと思いましたね。本当にかっこいい人です。
