
普段、考古学の発掘で見つかるものといえば、土器や武器、建物の跡などを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし今回、スイスの建設予定地から見つかったのは、なんと「パン」でした。
発見されたのは、黒く炭化した小さな丸い物体です。
調査の結果、これは約2000年前のローマ時代のパンである可能性が高いとされました。
では、なぜ2000年前のパンが、現代まで残っていたのでしょうか。
目次
- 建設予定地の下に眠っていた「最初期のローマ軍営」
- 炭化したことで残った「小さな平たいパン」
建設予定地の下に眠っていた「最初期のローマ軍営」
今回の発掘が行われた場所は、スイス北部、ヴィンディッシュにあるローマ軍団の駐屯地跡「ウィンドニッサ」の近くです。
ウィンドニッサは、かつてローマ帝国の北方方面における重要な軍事拠点でした。
発掘では、西暦1世紀の軍団要塞よりも古いとみられる防御施設の跡が確認されました。
並行して走る2本の溝や、規則的に立てられていた柱の跡から、木と土で作られた防壁があったことがわかります。
この発見により、ウィンドニッサ最初期のローマ軍営は、南北におよそ400メートルの規模を持っていた可能性が見えてきました。
【発掘現場となった場所の画像がこちら】
これまで、ウィンドニッサが一時的な軍事拠点から恒久的な軍団駐屯地へ発展した時期については、はっきりしていませんでした。
今回の発掘は、その時期が初代皇帝アウグストゥス(在位:紀元前27年〜紀元14年)の時代だったのか、それとも西暦14年以降のティベリウスの時代だったのかを考える重要な手がかりになると期待されています。
また、軍営内部では建物の跡や炉、金属製の工具、鍛冶の廃棄物、槍や投射武器の先端なども見つかっています。
つまり、この場所は単に兵士が滞在するだけの場所ではなく、調理や金属加工など、日々の生活と軍事活動が混ざり合う実用的な空間だったと考えられるのです。
炭化したことで残った「小さな平たいパン」
そのような発掘の中で、調査チームの目を引いたのが、黒く炭化した丸い物体でした。
この物体は周囲の土ごと慎重に取り上げられ、州考古学局の修復ラボへ運ばれました。
そこで丁寧に土を取り除いたところ、直径約10センチ、厚さ約3センチの小さな平たいパンのような形が現れました。
チームの分析では、これは高い確率でローマ時代のパンだと考えられています。
食べ物のような有機物は、通常ならすぐに分解されてしまいます。
パンが2000年も残ることは、きわめて珍しいことです。
では、なぜこのパンは消えずに残ったのでしょうか。
【実際に発見されたパンの画像がこちら】
鍵になったのは「炭化」です。
パンは焼け焦げて炭のような状態になることで、微生物に分解されにくくなります。
実際、古代ローマのパンとして有名な例には、西暦79年の噴火で埋もれたポンペイのパン屋から見つかった炭化パンがあります。
今回のパンも、何らかの理由で焼け焦げたために、偶然にも長い時間を生き延びた可能性があります。
台所で焦がしてしまったのか、火災のような出来事があったのか、詳しい経緯はまだわかっていません。
今後は専門の研究所で詳しい科学分析が行われ、パンの成分などが調べられる予定です。
もしこれが正式に確認されれば、スイス国内で初めて見つかったローマ時代のパンとなります。
軍営の防壁や武器は、ローマ帝国の軍事力を物語ります。
一方で、焦げた小さなパンは、そこにいた兵士や人々が火を使い、食事をし、時にはパンを焦がすこともあった日常を思い出させてくれます。
2000年前の歴史は、石や鉄だけでなく、食卓の失敗作のような小さな痕跡からも見えてくるのです。
参考文献
2,000-year-old Roman bread discovered under construction site
https://www.popsci.com/science/roman-bread-switzerland/
Bedeutende Funde in Vindonissa: Spuren des ersten Truppenlagers
https://www.ag.ch/de/medien/medienmitteilungen?mm=bedeutende-funde-in-vindonissa-spuren-des-ersten-truppenlagers-efcbb29d-a870-4fef-8ba5-f328d3caae0a_de#Njc0NDMwOS84M2ExYjFmNy05ZmU0LTQxNTMtYTJkMy04Y2U3Y2IzMzNlZTU
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

