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「市民クラブの限界を目ざす」水戸が新たな中期経営計画を発表『Go J1からGo Asiaへ』小島社長は夢を語ることをためらわない

「市民クラブの限界を目ざす」水戸が新たな中期経営計画を発表『Go J1からGo Asiaへ』小島社長は夢を語ることをためらわない


 4人目のキッカーを務めた山本隼大のペナルティキックがゴールネットを揺らし、水戸ホーリーホックのPK戦勝利が決まると、ケーズデンキスタジアムはこの日、一番の歓声に包まれた。

 J1の舞台で初対戦を迎えた鹿島アントラーズとの“茨城ダービー”は、後輩クラブに軍配が上がった。Jリーグ創設から数々のタイトルを手にしてきた“常勝軍団”を、後発クラブの水戸がJ1の舞台で撃破する。2026年4月4日は、“夢物語”が現実になった日として、水戸サポーターの心に深く刻まれた。

 クラブにとってのメモリアルな勝利も、水戸が初のJ1昇格を果たしたからこそ成し遂げられた成果だ。2020年7月、水戸の経営トップに就任した小島耕代表取締役社長が就任会見で「J1を目ざす」と口にすると、会見の場は「そんなの無理だよ...」といったニュアンスの空気に包まれたという。

 それから6年の時が経ち、J1初年度のシーズンを戦っている水戸は4月27日、新たな中期経営計画を発表した。経営面・トップチーム・アカデミーの3本柱がそれぞれ目ざす次なるフェーズ。経営面に関しては、5年後の2031年までにクラブの事業規模を45億円超まで拡大し、トップチームの目標はACL出場が掲げられた。

 さらにアカデミー部門の中期ビジョンは、所属カテゴリーを関東プリンスリーグからその先を含めた上位リーグ進出に定められている。
 
『Go J1からGo Asiaへ』と銘打たれた中期経営計画のスローガン。責任企業を持たない地方市民クラブの雄にとって、壮大なビジョンに映るが、中期目標の計画を主導した小島社長はこう語った。

「個人的には壮大なビジョンだとは思っていません。『やれる』と思っています。人を活用し、戦える人材を導入すれば、クラブとしての成長率が上がっていく過程で絶対に実現できるというストーリーを描いて実現に向かっていきたいです。

 もちろん、大きいことを言ったからには自分にもプレッシャーは掛かっています。昨年の途中からは昇格争いをしていた分も、J1に行かなければいけないプレッシャーと戦ってきましたが、一度そのプレッシャーから解放された後は、周囲の皆さんが『ホーリーホックは凄い』と言ってくださることに、どこか違和感を覚えてきました。

 今の状況でお腹いっぱいになってはいけないと強く思いましたし、選手たちがJ1を戦うなかで、このクラブをアジアで戦わせたいという気持ちになったことが一番の理由です」

 小島社長も就任7年目。毎年のように右肩上がりでクラブの事業規模を拡大してきた個人的な自負はあるものの、その一方で今後のクラブの成長欲に対する“違和感の正体”が姿を現わしてきた。

 トップチーム人件費はJ1の中でも、下から数えた方が早い部類。それだけにJ1残留が現実的な目標であることは大前提としても、他クラブの成長速度を見れば、決して悠長に構えてはいられない。

「26/27シーズンも、27/28シーズンも、現実的にはJ1残留が目標です。ただJ1残留ばかりを口にすると、クラブ経営が“ジリ貧”になります。このクラブが夢と感動と一体感の共有を理念に掲げているなかで、ある程度、届くだろうという現実を見据えながら夢を語らないと、その次を目ざす刺激がないと、“守りの経営”になってしまいます。

 今回の中期経営計画を社長室のスタッフと膝を突き合わせた議論を重ねてきたなかで、何がクラブスタッフのモチベーション向上につながり、何がトップチームの現場にも刺さって、自分自身にとっての原動力になるかと考えた時に、『アジアを目ざそう』という結論に達しました」
 
 ただ夢を語っても、数字はシビアな現実を突きつけてくる。2025年決算では過去最高を更新する16億円超(16億4,171万円)の売上を記録したとはいえ、中期目標の数値までは30億円程度の開きがある。

 盤面上の理想として、26/27シーズンは28億円の予算組でスタートし、「毎年10%成長」(小島社長)で推移すれば、2031年には45億円を超える算段だ。

 なお、45億円の経営規模となれば、2024年実績では柏レイソルなど中堅クラブに匹敵する規模感。ACL出場クラブ数の増加という“追い風”も含めて、「45億円規模のクラブがトップチームを編成することで、ACLへの参戦も可能なのでは」と小島社長は見立てる。

 近年のJリーグは、トップチーム人件費の投資額と成績がリンクする傾向が強く、J1のトップチーム人件費率の平均は2024年実績で37%。26/27シーズンを28億円の予算組でスタートさせるのも、トップチームの人件費に10億円を投じられる状況を作るため。

「サッカーは番狂わせが起こりやすいスポーツですが、事業サイドは勝つ確率を上げるために、ありったけの資金をいかにしてトップチームへ渡すかを考えている」とは小島社長の言葉だ。

 2031年の売上規模45億円超という目標を実現するために、5年先のスパンでスポンサー及びグッズ収入を引き上げていく取り組みと同時並行で実行すべき焦点は、入場料収入の大幅アップが必要不可欠。秋春制に移行する26/27シーズンは、ホームゲーム会場を約2万2,000人収容の水戸信用金庫スタジアム(笠松運動公園陸上競技場)に移すことは、入場料収入アップを目ざすうえで1つの起爆剤になりそうだ。小島社長は言う。
 
「水戸信用金庫スタジアムにホームスタジアムを移すことが入場料収入のアップにつながるかは、もちろん我々の活動次第です。たとえば、ケーズデンキスタジアムでは席数が限られているなかで、私が社長に就任してからは、2019年までに配布していた無料招待券の数を圧倒的に制限し、客単価を上げてきました。

 ただ水戸信用金庫スタジアムでは席数が広がる分も、ある程度は、まだ水戸の試合を観戦したことがない方々に届くような、あるいは再来場していただけるような、招待券施策を打ち出していく必要はあるかもしれません」

 また近年のJクラブは、MUFGスタジアム(国立競技場)でのホームゲーム開催を通じて、ファンの裾野拡大に取り組んできた傾向も見逃せない。ちなみに水戸の将来的な国立でのホームゲーム開催の可能性に関して、小島社長は「実は26/27シーズンで1試合、手を上げています」と言及。ただJリーグサイドの反応は、そもそものファンベースの数や国立開催の実績を盾に「“けんもほろろ”です」と小島社長はどこか嘆き節だった。

 水戸が国立でのホームゲーム開催に意欲を示す背景は「シンプルに新たなマーケティング機会の創出」と小島社長。現状のスポンサー先も全体の約15%程度が首都圏の企業であるため、国立開催の波及効果は計り知れない。
 
 5年先の2031年に『Go Asia』を掲げた水戸の近未来は、まだ霧に包まれていると言っていい。過去のJの歴史を紐解けば、市民クラブから脱却し、資金力に優れた責任企業の下、急スピードで成果を残しつつあるFC町田ゼルビアのような前例もある。

 サイバーエージェントグループをオーナー企業とする町田は、初参戦のACLエリートで準優勝という成果を収めたことは記憶に新しい。

 外資系企業の参入など、近年はJクラブの経営を取り巻く環境も新時代に突入している。クラブとしての競争力がよりシビア化するなかで、水戸がさらなる発展を遂げるには、市民クラブからの脱却が効果的な手段では、といった声が出てきてもおかしくない。それでも、小島社長は「市民クラブの限界を目ざす」と口にし、こう言葉を続けた。

「毎年の株主総会で話してきたように、私が社長である限りは、市民クラブとしての経営形態を変えるつもりはありません。私が社長に就任した時点で市民クラブの形態を変えることはないという約束はしてきました。繰り返しになりますが、私が経営者である限りは、市民クラブの限界を目ざす。この言葉に尽きます。

 ここ茨城という地域のポテンシャルは45億円を超えて、55億円程度の規模はあると思っています。我々と接点を持っていないパートナー企業はたくさんありますし、茨城県内にもホーリーホックの試合を見たことがないという方々はまだまだたくさんいます。このクラブの限界値は先にあると思っています。限界値までやったうえで、経営形態を変えることはあるかもしれませんが、そうなった場合、私はいません。それぐらいの気概で、私はホーリーホックの社長業に邁進しています」
 
 2026-2031中期経営計画を発表した記者会見における発言に耳を傾けると、小島社長は夢を語ることに決してためらいがない。中期経営計画達成のために、自らにプレッシャーを掛けているようにも映るが、その原動力とは何だろうか。囲み取材後の雑談の中で話していた言葉が印象深い。

「時代や世相が暗くなるなかで、スポーツこそが社会を明るくする力があると、個人的にはそう思っていますし、スポーツの世界にいる者こそ夢を語る義務があります。たとえ“ピエロ”になったとしても、夢を語って、皆と一緒にそこへ向かうことが私の大事な仕事かなと。時には辛くて泣いている日もありますが、自分が口にした夢を実現すべく、歯を食いしばって頑張ろうと、その気持ちを新たにしました」

 近未来のACL参戦へ――。次なる夢を叶えるために、市民クラブの新たな挑戦は、まだ始まったばかりだ。

取材・文●郡司聡(スポーツライター)

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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